遺言と異なる内容の遺産分割は許されない?

遺言書は、亡くなった方の最後の「想い」なので、最大限尊重されるべきものであり、原則、最優先されるべきです。

しかし、遺言書のとおり相続すると、相続人や受遺者にとって不都合が生じてしまう場合や全員が納得いかない場合などがあります。

そこで、相続人や受遺者の全員が合意をすれば、遺言書の内容と異なる形での遺産分割も認められるとされています。

遺言執行者が指定されている場合は?

遺言書の内容と異なる内容での遺産分割をしようとするときは、遺言書に遺言執行者が定められている場合は注意が必要です。

遺言執行者には、遺言書に書かれた内容を実現する役割を果たす義務があり、相続人は、遺言執行者が遺言書の内容を実現するのを妨害してはいけない(民法第1013条)と定められており、遺言執行者は、遺言書に書かれたとおりに実現させる義務があるのです。

そして、遺言執行者がいるにもかかわらず、相続人が遺言に反して相続財産を処分した場合、その処分行為は無効となります。遺言執行者いる場合は、相続人の相続財産に対する管理処分権は制限されているのです。

ですが、遺贈を受けた相続人が遺言の内容を知りながら遺産分割協議をした場合は、受遺者による「遺贈の放棄」とみなされることとなります。また、遺言によって取得した分を相続人間で贈与したり、交換的に贈与する合意は、私的自治の原則に照らして有効な合意であるとされています。

つまり、完全に相続人を制限することはできず、遺言執行者が遺言と異なる内容の遺産分割に同意することで、遺言書の内容と違った遺産分割をすることも有効と解されています。

そもそも遺言執行者とは

遺言執行者とは「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する者(民法1012条)」です。

上記でも述べたとおり、遺言執行者がある場合は、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができません。つまり、遺言の実現のために遺言執行者を定めておくと、相続人に邪魔されることもなく、相続人の協力を要請せずとも、遺手続きを行うことができ、遺言執行者を指定していない場合と比べて、迅速かつスムーズに手続きを遂行することができるのです(第三者の出現など細かい場合を除く)。

以上のことをふまえ、遺言執行者の指定は必須ではありませんが、手続きを滞りなく進めるためには遺言執行者をしていておいた方が良いでしょう。

せっかく遺言書がある場合でも実現がスムーズにいかないことは実は少なくありません。

例えば、相続人以外に「不動産を遺贈」をする場合。
遺言執行者の指定がない場合、不動産の登記申請には遺贈を受ける方(受遺者)だけでなく、相続人全員の協力が不可欠となるからです。
相続人の中には財産をもらえなかったり、受遺者よりも受け取る財産が少ない方がいる場合は特に、快く協力してくれることは関係性がない限り難しいです。

ここで遺言執行者を指定しておけば、遺言執行者と受遺者で登記手続きができます。もし受遺者自身を遺言執行者に選任していれば、受遺者は、自分が取得する不動産の登記手続きにおいて、相続人の協力を得なくとも一人で実現できるのです。遺言内容の実現をスムーズに進めるためにも遺言執行者の指定は、遺言書作成の上でとても重要なのです。

また、遺言執行者でしかできないことも民法に定められており、下記を遺言書でする場合は必ず遺言執行者の指定(指定がなければ、家庭裁判所で選任)が必要となります。

➀認知
②相続人の廃除・その取消し

逆を言えば、➀➁以外の事項は、遺言執行者がいなくても執行はできるということです。ですから、遺言執行者の指定が不要な場合もありますが、ほとんどの場合で遺言執行者の指定が遺言内容実現において重要となり、スムーズかつ権利侵害があった時に効果的なのです。遺言執行者の指定についても、遺言書の書き方についても配慮が必要となるため、専門家への相談が不可欠です。

遺言執行者の同意なく、遺言と異なる内容の遺産分割がなされた場合

上記で述べた通り、遺言執行者の同意がなければ、遺言の内容と異なる遺産分割協議は原則として有効とはなりません。
被相続人の最後の意思を実現させることが遺言執行者の使命であり、そのため遺言の内容の実現を妨げる行為がある場合は、是正するのが執行者の業務となり、遺言に反する遺産分割協議は無効であると主張して、遺言の内容を忠実に実行するのが原則です。

しかしながら、遺言の内容どおりに遺言執行がなされても、その後に相続人らにおいて処分行為(贈与や売買)をすることは贈与税や流通税の負担が余計にかかるなど、手間も無駄も増えます。

そのため、実務的には、その実質的妥当性を考慮して、遺言執行者の同意なく相続人らで遺言と異なる内容の遺産分割協議に基づいて相続登記を行った場合において、遺言執行者が遺言に記載されたとおりに移転登記手続をするように求め事案で、遺産分割は無効であるが、相続人間で贈与や交換しているものとして有効な合意とした裁判例もあるようです。

この記事の執筆・監修

清澤 晃(司法書士・宅地建物取引士)
清澤司法書士事務所の代表。
「相続」業務を得意とし、司法書士には珍しく相続不動産の売却まで手がけている。
また、精通した専門家の少ない家族信託についても相談・解決実績多数あり。

ご家族にこの記事を教えたり、記事を保存したい場合、下のボタンで共有・保存できます。
Tweets by tokyo_souzoku