相続・贈与マガジン2月号

収益力も贈与したい! 節税もできる築古アパートの贈与とは?

家賃収入が安定している築古アパートを子に贈与することで、節税しつつ、収益力を子に贈与することができます。特に、築年数の古い建物であれば、建物の評価が低いため、この効果は絶大です。今回は、親が子にアパートを贈与する場合の事例をもとに、その方法をご紹介します。

土地+建物を贈与すると贈与税が高額に……

財産や不動産などを贈与する場合、『(取得した財産-基礎控除額110万円)×税率-控除額』が納めるべき贈与税となります。この税率と控除額は“取得した財産額”に加えて、“贈与者が直系尊属で、かつ受贈者がその年の1月1日において20歳以上の子や孫である場合”と“それ以外”で異なります。また、不動産を贈与する際、基本的に建物は“固定資産税評価額”、土地は“路線価”を用いて相続税評価額を算出します。

仮に、Aさんが閑静な住宅地に築30年の木造2階建てアパートを所有しているとしましょう。そこでAさんは、昨年20歳を迎えた息子へこのアパートを贈与しようと考えています。建物は80坪、土地は90坪です。現在の建物の固定資産税評価額は650万円、土地の相続税評価額は6, 300万円、受取家賃は年額720万円とします。

まずは、このアパートの土地と建物、両方をAさんに贈与する場合の贈与税を計算してみましょう。前述の税率と控除額は、直系尊属から20歳以上の子や孫への特例税率を使用します。建物の固定資産税評価額と土地の相続税評価額を単純合計すると6,950万円です。アパートなどの貸家が立てられている土地の評価額は『更地の評価額×(1-借地権割合30~90%×借家権割合30%×賃貸割合)』で計算します。今回は課税対象額が5,600万円になったとします。この場合、贈与税は『(5,600万円-110万円)×税率55 % - 控除額640万円=2,379万円』とかなり高額になって
しまいます。

建物のみを贈与すると贈与税が格段に安くなる!

次に、土地は贈与せず、建物だけを贈与した場合を考えてみましょう。先ほど、建物は固定資産税評価額で贈与税を計算すると説明しました。今回の事例はアパートなので、建物の固定資産税評価額は、『建物の固定資産税評価額×(1-借家権割合30%×賃貸割合)』となります。仮に賃貸割合が100%(全部屋入居中)だとすると、本来の70%で評価されるため『固定資産税評価額×70%=455万円』が課税対象です。この場合、贈与税は『(455万円-基礎控除110万円×税率15%-控除額10万円=41万円』となります(これに加え、所有権移転登記をする場合は、登録免許税と不動産取得税(合計32万円)が課税されます)。
家賃収入は、土地の所有者ではなく、建物の所有者のものとなるため、Aさんの息子は41万円の贈与税を一度納税すれば、それ以降、毎年720万円の家賃収入が得られることになります。そのため、Aさんは建物とともにアパートの収益力も息子に贈与したことになるのです。

この贈与の効果が高いのは、土地の値段が高く(=家賃水準が高く) 、建物が古い(=贈与税課税の対象となる固定資産税評価額が低い)物件です。つまり、家賃水準が高い地域で築年数が経過したアパートや賃貸ビルなどが当てはまります。

また、建築費のローン返済が終わっていることも重要です。ローンが残っていると『負担付贈与』とみなされ、建物の評価が固定資産税評価額ではなく、時価評価となってしまいます(時価からローンを差し引いた額に贈与税がかかります)。

売買でも同様の効果が得られる

なお、贈与でなく建物を売買した場合も、同様の効果を得ることができます。ただし、固定資産税評価額ではなく時価で資産を評価し、贈与税ではなく建物を売却したAさんに対し“譲渡所得税”が発生し、購入した息子には不動産取得税と登録免
許税などがかかります。また、親が中古投資物件を現金で購入し、その後、建物だけを子に贈与した場合も同様の効果があります。

贈与した財産が2,500万円以下なら贈与税はゼロに!

贈与者が60歳以上の直系尊属で、かつ受贈者が20歳以上の子や孫であれば『相続時精算課税制度』を適用し、2,500万円まで非課税で贈与することが可能です(2,500万円を超えると一律で20%の贈与税が発生します)。ただし、相続が発生した際、相続時精算課税制度で贈与した財産は贈与時の評価額で持ち戻して相続税を計算
するため、十分に検討する必要があるでしょう。

また、相続時精算課税制度を利用しない場合でも、年度を分けて贈与すれば贈与税は減少します。仮に、今回の事例の建物を2分の1ずつ2年に分けて贈与した場合、贈与税は2年間で24万円となります。ただし、毎年登記を行わなければならないなどの問題もあるため、不動産の贈与をお考えの場合は、ぜひ一度お問い合わせください。

子や孫に“結婚・子育て資金”を贈与したら、課税されるのですか?

Q孫が結婚をすることになりました。しかし「資金がないから、挙式はせず写真のみ撮影しようかな……」と言っています。そこで、私の貯金を結婚・子育て資金として贈与することはできますか?

A結婚・子育て資金として1,000万円まで非課税で一括贈与することが可能です。そのうち300万円までを結婚資金として活用できます。

経済的不安が若年層に結婚・出産を躊躇させる一因になっていることを踏まえ、平成27年4月に『結婚子育て資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置』が創設されました。この制度は、直系尊属(両親や祖父母など)からの資金贈与を非課税とし、子や孫の結婚・出産・子育てを支援することを目的としています。

非課税限度額は1,000万円までで、そのうち300万円までを結婚資金に充てられます。結婚資金の非課税対象となるのは、会場費や衣装代、飲食代など挙式や披露宴に直接関係する費用です。交通費や新婚旅行代、結婚指輪代などは対象外となりま
す。また、出産・子育て資金は妊婦検診や出産費用、保育園などへの入園料や保育料などが対象です。
 

非課税とするためには、贈与を受けた受贈者が金融機関と『結婚・子育て資金管理契約』を締結し、専用口座に金銭を預入する必要があります。そして、『結婚・子育て資金非課税申告書』を金融機関に提出します(金融機関経由で税務署に提出されたものとみなされます)。実際に受贈者が結婚・出産・子育て費用を支払った後は、支払日の翌年の3月15日までに領収書などを金融機関に提出する必要があります。領収書には『①支払年月日、②金額、③支払内容(非課税対象となるもの)、④支払者、⑤支払先の名称と住所』が明記されていることが重要です。領収書を受領していない場合は、上記事項を記載した支払記録が領収書の代用と認められ
るケースもあります。なお、この制度の適用期間は、平成31年3月31日までに行われ
た贈与が対象です。非課税対象や贈与についてご不明点があれば、お気軽にご相談ください。

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