相続・贈与マガジン2019年6月号

数字で見る相続

142兆9,882億円

 日本証券業協会が行っている『インターネット取引に関する調査』によると、2018年4月から9月までの6カ月間に、インターネット取引経由で行われた株式現金取引や信用取引(上場投資信託及び不動産投資信託などを含む)の総額は142兆9,882億円でした。そのうち、40代、50代の株式信用取引の占める割合は50.4%、60代以上では28.3%となっています。
 こうしたインターネット取引による財産の存在が、遺産分割協議後に明らかになるケースが多く、遺産分割協議のやり直しが発生したり、たまたまその財産の存在を知った相続人が着服したりする問題が指摘されています。将来を見据え、インターネット取引による財産を含めた相続対策が必要といえます。
 後段「今からできる相続対策」では、インターネット取引による財産の相続について説明しています。ぜひご一読ください。

◇資産安心コラム◇

わが子に会社を継がせたい!
相続準備としての事業承継

中小企業庁発表の2018年版『中小企業白書』によると、2015年時点の経営者の年齢層で最も多いのは“ 65歳~69歳”となっており、経営者の高齢化が進んでいます。経営者のなかには一代で企業を拡大した人も多く、できれば自分の子どもに事業承継させたいと考えている人も多いでしょう。
今回は、わが子(親族)に事業承継をする3つの方法をご紹介します。

(1)贈与による事業承継

 経営者が生前贈与で後継者に株式を贈与する方法です。自分が生きている間に事業承継が
進んでいくため、安心して引退できるというメリットがあります。毎年一定額までの贈与が非課税になる『暦年贈与』制度を活用すれば、ある程度贈与税を抑えながら事業承継を進めることもできるでしょう。
 ただし、贈与財産を相続時の遺産分割に含む場合は、ほかの相続人から「後継者だけ特別に利益を得ている」などと思われて相続のときにもめたり、ほかの相続人から遺留分(相続人が民法上最低限相続できる財産)を請求されたりする可能性が出てきます。そのためこのケースでは、将来の相続を考慮に入れながら事業承継を進めていく必要があります。

(2)相続による事業承継

 経営者が遺言書を残して株式を後継者に渡す方法です。税金面でいえば、相続税は贈与税に比べて基礎控除額が大きく、税率も低いため、節税という面では生前贈与よりも適した方法といえます。
 一方、現経営者が生きている間にしっかり話し合っておかなければ、遺された相続人の間でもめ事に発展する可能性があります。たとえば、現経営者が事業に必要な資産を個人所有していた場合、それらが経営に関係のない相続人に相続されてしまうおそれがあります。このほか遺留分の問題もあるため、現経営者が生きている間に、相続人を集めて事業承継について十分な話し合いをしておく必要があるでしょう。

(3)売買による事業承継

 遺留分と税金という2つの問題を解消できるのが、後継者に株式を買い取ってもらう方法です。この方法であれば、贈与税・相続税ともにかかりませんし、遺留分の問題も発生しません。
 ただし、後継者は株式を買い取るための資金が必要となりますし、経営者側のほうは、株式売却による譲渡所得が発生した場合、譲渡所得に課税されるといった面もあります。
 『贈与』『相続』『売買』のいずれの方法にもメリットとデメリットがあります。のちにトラブルに発展しないよう、後継者や相続人と話し合いながら、後悔のない事業承継を進めてください。

◇今からできる相続対策◇

相続人の9割が失敗する相続準備(2)
~ネット証券など電子化財産の相続~

相続人が相続できる財産としては、預貯金や不動産などのほかに、インターネット取引による財産があります。その典型例としてあげられるのが、ネット証券やネットバンクの口座取引などで、最近では仮想通貨も注目されています。そこで、今回はインターネット取引による財産の問題点とその対策についてご紹介します。

ネット取引による財産の問題点と対策とは?

(1)ネット証券やネットバンクの預金

 被相続人がインターネットを介して行っている投資や預金に関しては、まず相続人がその存在を知っていれば、IDやパスワードがわからなくても、証券会社や銀行に対して相続に関する手続きを取ることができます。
 問題なのは、相続人がそれらの存在を知らない場合です。誰も存在を知らない財産は金融機関に問い合わせることもできません。もしも被相続人が何らかのインターネット取引による財産を有していると思われるときには、被相続人の預金明細などを調べ、取引履歴を確認しましょう。理由のわからない取引があれば、金融機関や証券会社に問い合わせることで存在が判明することがあります。
 ネットバンクに預金がある場合は一般的な銀行口座と同じく、預金が凍結され、手続きが終われば預金額が相続人に渡ります。しかしネット証券で未決済の先物取引がある場合には、買戻しや転売によって決裁した後に残高が返金になるため、市場の動向によってはほとんど資産が返ってこないこともあります。

(2)仮想通貨

 ビットコインなどの仮想通貨が相続財産となるケースも出てきました。仮想通貨についてはまだ法整備が十分に進んでいないのが現状ですが、国税庁の通達などにより、徐々に整備されてきています。
 まず、「仮想通貨が相続財産に含まれるのか」については、含まれることが明らかになりました。
 次に、どのように仮想通貨を評価するのかという点については『活発な市場が存在する場合は仮想通貨交換業者が公表する課税時期における取引価格による評価を行う』とされ、市場が存在しない仮想通貨については、仮想通貨の実体を踏まえて個別に評価するとしています。
 被相続人は、IDやパスワードを書き残しておくほか、遺言書にもインターネット取引による財産の存在が特定できるよう記載しておくことが重要です。まだ遺言書の準備をしていないという場合でも、家族などには電子化財産の存在を伝えておきましょう。

◇相続の基本講座◇

配偶者が受取人の生命保険。
相続財産に含まれる?

Q

 夫が亡くなりました。遺言書がないため遺産分割協議をしていますが、配偶者の私が受取人になっている生命保険の保険金も相続財産になるのでしょうか?

A

 受取人が被相続人以外の相続人となっている生命保険は、遺産分割協議対象の相続財産にはなりません。しかし、相続税を計算するときの対象にはなります。
受取人が法定相続人であれば、一定額を超えると課税対象財産となります。

相続財産に含まれるものと含まれないもの

 民法では、相続財産は『被相続人の財産に属した一切の権利義務』とされていますが、そのなかには含まれるものと含まれないものがあります。
 相続財産として多いのが、不動産や預貯金、株券やゴルフの会員権、貴金属などでしょう。このほか、住宅ローンの残債務や未払税金などもマイナスの財産として相続財産となります。
 一方で、社員としての地位などは相続財産には含まれません。

生命保険は相続税の算定に含まれるので注意

 生命保険は、契約者と受取人が誰かによって、相続財産になるかどうかが変わります。
 契約者が被相続人で受取人が法定相続人となっている生命保険が一般的ですが、このケースでは、生命保険は受取人の固有財産となるため、遺産分割協議対象の相続財産にはなりません。
 一方、医療保険などが付加されている生命保険で、契約者も受取人も被相続人になっている医療保険金については遺産分割協議対象の相続財産として扱われます。
 今回のケースでは、生命保険は遺産分割協議対象の相続財産にはなりませんが相続税の対象となります。ただし相続税を計算する上では、受取人が法定相続人であれば、全ての法定相続人が受け取った保険金の合計額のうち「500万円×法定相続人の数」を超えた部分が課税対象財産となります。相続税の申告漏れが起きないように注意しましょう。

 

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