相続・贈与マガジン2019年7月号

数字で見る相続

57.1%

 国税庁が平成30年末に公表した『平成29年分の相続税の申告状況について』によれば、相続税の申告があった相続財産のうち、名義変更が必要となる土地や家屋、有価証券が占める割合は57.1%でした。金額にすると9兆5,404億円にものぼります。
 さらに、この数字には預貯金は含まれていないため、実際にはより多くの相続財産において、名義変更が必要となることがわかります。
 名義変更をしないまま亡くなった被相続人の財産をそのまま放置してしまうと、あとから相続人が権利行使しようとしてもすぐにはできません。また、さらに相続が起きてしまったら、相続人間の関係はどんどん複雑化してしまいます。本誌3ページには、名義変更手続きについて掲載しています。ぜひご一読ください。

◇資産安心コラム◇

財産を特定の人に託したいときに役立つ
『民事信託』とは

 先祖代々受け継いできた土地や建物は、配偶者側の親族ではなく自分の親族に引き継いでほしいと考える人も多いものです。しかし、相続の状況によっては自分の親族に引き継げずに、配偶者側の親族に渡ってしまうことがあります。そこで、自分が指定した人に財産を遺したいとき、相続と共に活用したいのが『民事信託』です。

財産を守るのに活用したい民事信託

 先祖代々受け継いできた土地や建物であるとはいえ、自分が死亡した後で配偶者が住む場所に困ることがないように、自宅不動産は配偶者に遺してあげたいと思うものです。
 しかし、夫婦間に子どもがいない状態で、相続によって配偶者に土地や建物の所有権が移ってしまうと、配偶者が死亡した後には配偶者側の親族が相続人となる場合があります。
 すると、土地や建物は自分の家系を離れ、配偶者の親族のものになってしまいます。
 たとえ配偶者との間に子どもがいたとしても、その子どもの代で同じことが起きてしまう可能性があります。
 ここで役に立つのが財産を特定の人に託す制度『民事信託』です。『民事信託』では、財産の管理を託したい人を委託者、財産の管理を託される人を受託者、財産から生じる利益を得る人を受益者といいます。たとえば、「自分に何かあったときに、妻が自宅に住み続けられるようにしたい。ただ、自宅の管理は弟に任せたい」というときには、委託者は夫、受託者は弟、(第一)受益者は妻とします。
 さらに、受益者は弟から先に連続して指定ができます。そのため、たとえば「妻が亡くなったら自宅は弟に譲りたい」と伝えて、第二次受益者に弟を指名することも可能です。
 なお、受託者と受益者の兼任の問題や、不動産取得税がかかる形、かからない形など、相続税の対象となる場合、民事信託の組み方は複雑ですので、専門家への事前の相談が必要となります。

『民事信託』と遺言書は併用しよう

 では、民事信託さえしていれば遺言書は必要ないかというと、そんなことはありません。
 民事信託では今ある財産について、誰に託すか、利益は誰が得るかなどを決めることができますが、信託契約を交わした後に生じた財産など、信託契約にない財産については対象外となります。
 一方、遺言書では自分が亡くなるときに存在するすべての財産について行き先を決めることができます。
 信託契約していない財産は遺言書で誰が相続するかを決めるなど、信託と遺言書との併用も考えましょう。
 工夫次第で便利に使える民事信託。わかりにくいところもありますが、納得のいく財産管理のために、ぜひ活用していただきたい制度です。

◇今からできる相続対策◇

相続人の9割が失敗する相続準備(3)
~名義変更手続き~

相続時に相続人がすべきことの一つが、被相続人の財産を相続人に名義変更する作業です。名義変更が必要なのは不動産登記のほか、預貯金や株式、会員権など多岐に渡り、相続が開始してからその数の多さにとまどう方がほとんどです。今回は、この名義変更手続きについてご紹介します。

財産ごとに手順が異なり手続きが煩雑

 相続が始まると、被相続人が生前所有していた財産は相続人に引き継がれます。それらを相続人がそのまま使い続ける場合は、所有者が変わるため、名義変更が必要になります。
 
 この名義変更が必要な財産は、非常に多岐に渡ります。まずは、被相続人宛ての郵便物や通帳の取引履歴などを調べて相続財産を確定するとともに、名義変更が必要な財産をすべて洗い出さなくてはなりません。
 
 この名義変更手続きには、多くの相続人が苦労しています。それは、名義変更が必要な財産の数が多いうえ、手順や必要となる書類、手続き先、期間などがそれぞれ異なるからです。
  
たとえば不動産の所有権移転登記では、被相続人の生まれてから死ぬまでの戸籍謄本や相続人全員の最新の戸籍謄本、遺言書または遺産分割協議書が必要となります。
 遺産分割協議書を添付する場合には、さらに相続人全員の印鑑証明書も添付しなければなりません。
 遺言書がなければ、遺産分割協議をしてから名義変更の手続きとなりますが、遺産分割協議がまとまるのにも一定の時間がかかってしまうのです。

先延ばしになりがちな不動産の名義変更

 相続税の納税期限は10カ月となっていますが、名義変更自体は10カ月を超えてから行ったとしても罰則などはありません。そのため、特に不動産などは、亡くなった被相続人名義のままにしているだけでなく、なかには数代に渡って名義変更をしていないケースもあります。しかし、名義変更をせずに放置して時間が経つと、のちにさらに相続手続きが必要となったとき、相続人を全員割り出す作業が困難になったり、遺産分割協議を遡って行わなければならなくなったりと、名義変更までの手続きはさらに煩雑になってしまいます。
 名義変更は、遺産分割が定まったら、できる限り早く取りかかりましょう。

◇相続の基本講座◇

エンディングノートの活用(1)
~遺言書のたたき台として~

Q

近年、終活の一つとして『エンディングノート』をつけることが流行っています。しかし私は遺言書を遺す予定なので、必要ないですよね?

A

エンディングノートは遺言書の代わりとして使うことはできません。しかし、遺言書のたたき台など、いろいろな用途で活用できます。遺言書も用意している場合、矛盾がないように定期的な見直しをしておくことが肝心です。

 自分が亡くなった後のことを、さまざまに想定して書き遺しておけるエンディングノート。自筆の遺言書は、自分で管理していた場合、裁判所の検認(遺言書の存在および内容を確認する手続き)が必要ですが、エンディングノートは誰の許可もなく開封できる手軽さがあります。また、遺言書は形式が細かく決まっていますが、エンディングノートは自由です。ただし、遺言書の代わりにはなりません。
 エンディングノートは書店でも数百円で売られており、インターネットでダウンロードすることもできます。
 書いてみることで、今自分にどれくらいの財産があるのか、相続人には誰がいるのかといったことを
整理しながらじっくり考えることができ、遺言書を準備
する前のたたき台とすることができます。
 なかなか「遺言書を書こう」という気にはなれなく
ても、エンディングノートなら気軽に取りかかれるの
ではないでしょうか。

 遺言書がある場合、エンディングノートを書き進めるうちに、遺言書と内容が矛盾してくる可能性も出てきます。
 その場合は、本人の意向にかかわりなく、遺言書の方が優先されてしまいます。どちらも定期的に見直して、内容を更新しておきましょう。

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