相続・贈与マガジン2019年9月号

知っておきたい相続と税金のことがよく分かる「相続・贈与マガジン」9月号の情報をご紹介します。

今回は「生前贈与」で思わぬ問題を防ぐために必要なこと、増税後の住宅購入を支援する「住宅取得資金贈与制度」の解説などをお届けしています。

2019年9月号 目次

71.0%とは?数字で見る相続

中小企業庁公表の『平成28年度中小企業・小規模事業者の事業承継に関する調査』によれば、所有する自社株式を後継者に譲りたいと考えている経営者は全体の71.0%。また、経営者個人が保有する事業用資産を後継者に譲りたいと考えている経営者の割合は全体の59.2%でした。

さらに、後継者または後継者候補として自分の子どもを想定している人の割合は54.3%と、全体の半数以上を占めていました。子どもの配偶者や自身の配偶者、孫、兄弟姉妹まで入れると、親族の割合はもっと上がります。

これらのことから、事業承継と相続の問題は、切っても切り離せない密接なものであることがわかります。事業承継において、スムーズに後継者に相続ができる体制を整えることは重要な課題となっています。

生前贈与をする際に要注意!思わぬ問題を防ぐために必要なこと

預貯金や不動産、経営者であれば自社株といった財産を生きているうちに受け継がせる『生前贈与』は、相続税対策として役立つ方法の一つです。

ただし、生前贈与をするときは遺言書も遺しておかなければ、思わぬ問題が起きるおそれがあります。

今回は、生前贈与と遺言書について解説します。

生前贈与の際に遺言書も遺すべきその理由とは?

相続税は、基本的に相続が発生したとき、すなわち被相続人が死亡した時点の財産をもとに計算されます。相続人や第三者に資産を生前(相続開始3年より前に)贈与しておけば、相続財産が減るため、結果として課税される相続税を抑えることができます。こうしたことから、相続対策として生前贈与のニーズは高いといえます。

生前贈与をする際に忘れてはならないのが、遺言書も遺しておくことです。遺言書を遺さずに亡くなってしまった場合、原則として遺産分割協議が必要になります。

遺産分割協議では、相続財産を相続人で話し合って分配することになりますが、ほかの相続人が「長男だけ生前贈与を受けてずるい」などと言って、生前贈与分を相続財産に加算するよう求めてくることがあります。これを『特別受益の持ち戻し』と呼びます。『特別受益』とは、一部の相続人が受けた生前贈与や遺贈(遺言によって財産を無償で譲ること)などの利益をいいます。

『特別受益の持ち戻し』が主張されると、経営者が自身の財産の多くを占める自社株を長い年月をかけて長男に譲渡し続けていたとしても、相続時に自社株も含めた遺産分割協議を行わなければなりません。その結果、自社株の所有者が多数の相続人に分散してしまい、経営に問題が生じるおそれもあります。

こうした事態を防ぐのが、遺言書です。遺言書で特別受益を遺産に加えないこと(特別受益の持ち戻し免除)を指示しておけば、遺産分割の際に特別受益の持ち戻しはできません。

遺言書を遺しただけですべて解決しない場合も

ただし、遺言書を遺したからといってすべてが丸く解決するわけではありません。

法律では『遺留分』といって、一定の相続人には最低限の財産を主張する権利が認められています。遺言書があっても遺留分を剥奪することはできません。とはいえ、遺留分として請求できる財産の割合は法定相続分よりも少なくなっています。たとえば、相続人が2人の子どもだった場合、法定相続分はそれぞれ2分の1ですが、遺留分は4分の1となります。

遺留分を請求すること(遺留分減殺請求)ができる期間は、相続を知ったときから1年間と限定されています。相続開始から10年経過したら、その日以後に知ったとしても時効により消滅されます。

生前贈与をするときには相続時に起こりうるリスクも考慮しながら行う必要があります。

増税後の住宅購入を支援する『住宅取得資金贈与制度』とは?(1)

子どもや孫が家を取得するときに親が資金を贈与すれば贈与税の対象になります。しかし、『住宅取得資金贈与制度』を活用すれば、一定額まで非課税にすることが可能です。

住宅取得資金贈与制度は、2019年10月から始まる消費税増税後に活用の幅がさらに広がることが予想されるため、この機会におさえておきましょう。

増税後は住宅取得資金贈与制度の非課税枠が拡大

家を建てる、購入をする、またはリフォームをするときに、相続対策にもなるということで両親や祖父母が子どもや孫に対して、資金を生前贈与することがあります。このとき、たとえば、普通に3,000万円を20歳以上の子や孫に贈与した場合、約1,036万円の贈与税が子や孫にかかりますが、住宅取得資金贈与制度を使えば、一定金額まで贈与税が非課税になります。

この住宅取得資金贈与制度は、家を取得する際の契約日によって非課税の限度額が異なります。2020年3月31日までの時点で消費税8%が適用される契約については、省エネ等住宅で1,200万円、それ以外の住宅では700万円が非課税の限度額となります。

しかし、これが消費税10%になると非課税の限度額が2倍以上に跳ね上がります。省エネ等住宅で3,000万円、それ以外の住宅でも2,500万円までが非課税となるのです。

制度を利用する際に押さえておくべき要件とは?

ただし、住宅取得資金贈与制度には、主に次のような要件があります。

  • 資金の贈与を受けた年の1月1日時点で子どもや孫の年齢が20歳以上であること
  • 贈与を受けた子どもや孫のその年の所得金額が2,000万円以下であること
  • 贈与を受けた子どもや孫が平成21年分から平成26年分までの贈与税の申告で「住宅取得 等資金の非課税」の適用を受けていないこと
  • 贈与を受けた子どもや孫が、一定の特別関係者から家屋の取得などをしていないこと

さらに、子どもや孫は両親や祖父母から贈与を受けた年の翌年3月15日までに資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をする必要があります。

要件はあるものの、メリットが大きいため、ぜひ利用したい住宅取得資金贈与制度ですが、例外もあります。次号にて、ご紹介していきます。

受贈者ごとの非課税限度額

住宅用の家屋の新築等に係る対価等の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合の金額です。

住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日省エネ等住宅左記以外の住宅
2019年4月1日〜2020年3月31日3,000万円2,500万円
2020年4月1日〜2021年3月31日1,500万円1,000万円
2021年4月1日〜2021年12月31日1,200万円700万円

もしものとき、いくらかかる?相続税の計算方法

夫が亡くなったときに相続税がいくらかかるのか知りたいのですが、計算方法がわかりません。
また、配偶者とほかの相続人とで計算方法は違いますか。
相続税額の算出方法は、各人が相続などで実際に取得した財産に直接相続税の税率を乗じるというものではありません。まずは相続人全員にかかる相続税の総額を計算し、それを個別に按分していきます。

相続税の計算方法を、五つのステップで紹介します。

1.相続財産ごとに課税価格を計算する

まずは相続財産を洗い出し、課税対象となるものと非課税のものに分け、課税対象となる財産を確定します。

たとえば、生命保険金のうち『500万円×法定相続人の数』は非課税です。不動産などは、相続税評価額を算出する必要があります。債務の有無も要確認です。

2.課税価格を合計し、基礎控除を差し引く

1で出した課税価格を合計し、債務がある場合は債務分を差し引きます。そこから基礎控除を差し引いたものが、課税される相続財産の総額となります。

計算式は『課税価格の合計額-基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)』です。

3.相続税の総額を出す

2を各相続人が法定相続分通りに相続したと仮定して各相続人の取得金額を出し、それぞれ相続税を計算します。これを合計すると、相続税の総額となります。

相続税の税率は、取得金額によって決められており国税庁のホームページに『相続税の速算表』として掲載されています。たとえば取得金額が1,000万円以下であれば10%となります。

4.実際のそれぞれの相続税額を計算する

3の相続税の総額を実際に相続する割合に応じて振り分けます。法定相続分は総財産の2分の1でも、遺言または遺産分割協議により決まった実際の相続分が4分の1である場合、相続税の総額の4分の1が、その人が支払う相続税となります。

5.控除を適用し、納税額を算出する

最後に、それぞれに応じた控除を適用し、納税額を算出します。たとえば配偶者の場合、相続財産が1億6,000万円以下、もしくは配偶者の法定相続分までであれば相続税が非課税となります。

相続税額の試算は相続対策に不可欠

相続税額を試算しておくと、相続対策を考える際に役立ちます。間違いなく計算し、将来に備えましょう。

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