相続・贈与マガジン2020年4月号

法律上保障されている遺産の取り分である「遺留分」。
請求する権利があることを知らずに時効消滅することも。
また、円満な相続のために遺言書をのこしても、遺留分を知らずに書くと、その遺言書は争いの元になるかもしれません。

2020年4月の「相続・贈与マガジン」では、遺留分について詳しく説明するほか、不在者がいる場合の遺産分割協議についてご案内しています。

2020年4月号目次

13.6%とは?数字で見る相続

2019年9月に総務省統計局が発表した『平成30年住宅・土地統計調査 結果の概要』によると、2018年の日本の総住宅数6,240万7,000戸のうち848万9,000戸が空き家であり、空き家率は13.6%と過去最高となったことがわかりました。内訳で最も多いのは『賃貸用の住宅』(総住宅数の6.9%)ですが、2013年との比較で増加率が多かったのは、賃貸用・売却用・別荘などの二次的住宅以外の『その他の住宅』(総住宅数の5. 6%)でした。これには、転勤や入院などによる長期不在の住宅や、建て替えなどのために取り壊す予定の住宅のほか、空き家の区分の判断が困難な住宅が含まれます。

生活拠点から離れた場所に空き家を抱えていると、売却する際に時間も手間もかかるうえ、売れない間は管理し続けなければなりません。

相続人に“負動産”を遺さないためにも、空き家は放置せず、早めに整理しましょう。

遺言のため不公平な相続に……相続財産を変更することはできる?

遺言書の内容に関わらず、一定の法定相続人であれば『遺留分』と呼ばれる“取り分”を相続することができます。また、それを請求できる権利を『遺留分侵害額請求権』といいます。これを知っているかどうかによって、相続時に受け取れる財産の額が変わってくることもあります。

そこで今回は、『遺留分侵害額請求権』について解説します。

一定の法定相続人が行使できる『遺留分侵害額請求権』とは?

『遺留分』とは、一定の法定相続人に法律上保障されている遺産の取り分のこと。遺言や贈与によって遺留分が侵害された相続人は、その分を金銭的に取り戻すことができます。これを『遺留分侵害額請求権』といいます。
遺留分侵害額請求権が認められる“一定の法定相続人”とは以下を指し、兄弟姉妹やその代襲相続者となる甥姪には認められません。
●配偶者
●子、およびその代襲者、再代襲者
●父母や祖父母などの直系尊属
 
遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人の場合は3分の1で、配偶者と子の場合は2分の1となり、相続人の状況により異なります。

なお、『遺留分侵害額請求権』は、従来は『遺留分減殺請求権』と呼ばれていたもので、改正相続法施行に伴い、2019年7月1日から名称が変更されました。
法改正による大きな変更としては、名称以外にも、遺留分侵害額請求権が金銭債権に限定されたことがあげられます。従来の請求権は金銭請求権ではなかったため、仮に相続財産が不動産だった場合、請求権者は不動産の所有権をほかの相続人と共有することになっていました。
これでは被相続人が遺贈・贈与したかった目的財産が当の本人に渡らなくなるなど、被相続人の意思が尊重されない事態となってしまいます。

そこで、法改正により遺留分侵害額に相当する金銭を請求できるようになったのです。

遺留分侵害額請求権には時効があることに注意!

遺留分侵害額請求権で問題になりやすいのが、特定の相続人が生前贈与によって多額の財産を得ているようなケースです。たとえば、長女だけが家を建てる資金を親から贈与されていた場合、家を建てるための資金を相続財産として計上できれば遺留分の額が増えることになります。
この点について、判例では『生前贈与が特別受益に当たる場合は遺留分算定の基礎とする』とされています。特別受益には、住宅資金のほか結婚準備金や留学などの教育費用、生活費の援助なども該当することがあります。

また、注意しなければならないのが『時効』です。遺留分侵害額請求権は次のいずれかの時点で消滅してしまい、時効を過ぎると権利を行使することができなくなります。

●遺留分権利者が相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間遺留分侵害額請求権を行使しないとき
●相続開始から10年が過ぎてしまったとき

また、遺留分侵害額請求権を行使して通常の金銭債権になった後は10年間(債権法が改正された後は5年)で時効となり請求権が消滅します。
一定の相続人には遺留分侵害額請求権認められるわけですが、時効までの期間は長くはありません。もしも侵害された遺留分を取り戻したいと思うなら、相続開始後、早めに対応をとっていくことが必要となります。

相続人が不明・不在!相続手続きはどう進めればよい?

相続が開始され、相続人と連絡を取ろうとしたところ、所在がわからない相続人が出てくることがあります。特に、被相続人が高齢の場合は相続人と長年音信不通になっていることも多く、所在だけでなく生死も不明になっていることがあります。相続人の所在がわからないとき、どのように相続手続きを進めればよいのでしょうか。

行方不明者が見つからなければ『不在者財産管理人』を選任

被相続人の遺言書が残っていない場合、原則として相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。そのため、相続人の中に行方不明者がいると、遺産分割協議を進めることができません。
そこで、まずは行方不明となっている相続人を見つけるための働きかけが必要となります。一般的な進め方としては、行方不明者が最後にいた住所がわかれば、そこから住民票等をとって本籍地や転居先を調べたりすることになります。郵便物の転送設定がされている可能性もあるため、本人宛に郵便を送るという方法もあります。
それでも見つからない場合、いつまでも行方不明者を探しているわけにはいきません。相続税の納付期限は相続が開始してから10カ月となっていますから、それまでには遺産分割協議を進めたいところです。

そこで、ある程度の期間が過ぎても不明者が見つからない場合は『不在者財産管理人』を選任する手続きに移ることになります。不在者財産管理人とはその名の通り、行方不明者の財産を管理する人のことで、一般的には利害関係のない第三者が選任されます。被相続人の親族のうち相続人ではない人や被相続人の友人、行方不明者の親族、あるいは弁護士や司法書士などが候補となるケースが多いでしょう。
不在者財産管理人の選任後、家庭裁判所に『権限外行為の許可』の申し立てをし、許可を受ければ、不在者財産管理人が行方不明者に代わって遺産分割協議に参加することができます。

不在者を死亡したとみなす『失踪宣告』という方法も

もう一つの方法として、7年以上(危難失踪の場合は危難が去った後1年以上)生死不明になっている相続人について『失踪宣告』を受けるという方法もあります。しかし、この方法を使うときには注意が必要です。
失踪宣告が認められると、不在者は死亡したものとみなされるからです。不在者についての相続も始まりますし、婚姻も解消されます。単に所在地がわからないだけで、死亡している可能性が低い場合には、失踪宣告は使わないほうが無難であるといえます。

相続手続きにはタイムリミットがあります。相続税が課税されなければ急ぐ必要はないとはいえ、放置して数次相続(相続人の1人が死亡し、次の遺産相続が開始されてしまうこと)になってしまうとさらに手間がかかります。相続を意識し始めた時点で一度相続人を調べておき、行方不明者や死亡者がいないかを確認しておきましょう。

遺産分割協議や遺言書の内容に納得できない場合は?

被相続人が亡くなると、相続人の間で遺産をどのように分けるか、遺産分割協議を行います。
しかし、そこで決まった内容に納得できない場合もあるでしょう。その場合、協議をやり直すことはできるのでしょうか。また、被相続人が残した遺言書の内容に納得できない場合、従わなくてもよいのでしょうか。

遺産分割の再協議には相続人全員の合意が必要

相続人の間で遺産分割協議がまとまった後では、遺留分侵害額請求(一定の法定相続人であれば相続財産を請求できるというもの)を行うのは原則としてむずかしいのが現状です。
ただし、再協議が可能になる場合があります。まず、相続人全員が『改めて遺産分割協議をして再分割してもよい』と合意した場合です。とはいえ、遺産分割に関して利害関係がある第三者がいる場合、改めて協議をしたとしてもその人の権利を侵害することはできません。

次に、遺産の額が少ないと誤信して遺産分割協議に合意してしまったなど、何らかの錯誤があった場合です。取り決めた遺産分割は無効となり、改めて協議をすることができます。

遺言書の内容に反する遺産分割は可能

被相続人の遺言書は絶対であると思われがちです。確かに遺言書は被相続人の意思の表れではありますが、実際に財産を受け継ぐのは相続人です。
そのため、相続人の便宜を図るために遺言書の内容と反することを遺産分割協議で取り決めることはできます。さらに、子どもや配偶者など一定の立場にある相続人が遺留分侵害額請求権を行使して遺留分を請求することも可能です。
遺産分割協議の後に納得いかないと思っても、再協議できない場合もあります。

また、再協議が可能な場合であったとしても、やり直しには労力がかかります。後悔しないように協議前に、しっかりと考えをまとめておくことが大切です。

「相続・贈与マガジン」を読みたい方へ

毎月発行の「相続・贈与マガジン」をもっと読みたいとご希望の方に、PDFファイルをお送りしています。

メールフォームの「お問い合わせ内容」欄に「相続・贈与マガジン」希望と書いて、メールアドレスをお知らせください。

ご家族にこの記事を教えたり、記事を保存したい場合、下のボタンで共有・保存できます。
Tweets by tokyo_souzoku