相続手続きを放っておくとどうなるの?~放置するリスクを解説~

亡くなった人の所有する財産や権利を引き継ぐ相続。
現金や預貯金、有価証券から不動産まで相続の範囲は多岐にわたり、手続きも煩雑で時間を要するケースがほとんどです。大切な方を亡くされ、気持ちが落ち込んでいる時ですから、ついつい後回しにしてしまうのも当然かもしれません。

しかし、相続の手続きを行わず、そのままにしておくと、トラブルの原因にもなりかねません。必要な手続きをしなかった場合、どのようなリスクにつながるのでしょうか。相続の詳しい手続きとともに解説します。

1.相続に関する手続きってどんなものがあるの?

人が亡くなったとき、やらなければいけないことは沢山あります。また期限が決められているものもあり無視することはできません。以下で相続関係で起こる主な手続きをあげましたので、ご確認ください。

① 死亡届、火葬
② 遺言書探し、(自筆証書遺言書の場合は)家庭裁判所にて検認
③ 相続人調査
④ 相続財産調査
⑤ 相続放棄、限定承認(熟慮期間3ヶ月)
⑥ 準確定申告(相続開始後4ヶ月)
⑦ 遺産分割協議開始
⑧ 遺留分侵害額請求(相続開始と遺留分侵害があったことを知ってから1年間)
⑨ 不動産の相続登記、預貯金払い戻しなど
⑩ 相続税の申告、納税(相続開始後10ヶ月)
⑪ 生命保険金の請求(相続開始後3年以内)

まず、相続手続きの中で期限が短いのが「相続放棄」です。
相続というとプラスの財産ばかり想像しがちですが、中には「借金=マイナスの財産」の方が多い方もいらっしゃいます。
そのため、単純にすべてを相続してしまうと「マイナス」の相続となり、その場合亡くなった方の借金等を返済しなければならないことになります。
そういった場合は、3ヶ月以内に家庭裁判所へ相続放棄の申立てをします。しかしながら、相続放棄の撤回は原則不可なので、慎重に判断してください。

.具体的な相続の承認・放棄の手続き

前段で書きました通り、相続に関しては3ヶ月以内に、故人の遺産を相続するかどうかを決めなければなりません。
(正確には、被相続人がお亡くなりになったことを「知って」から3ヶ月です。)仮に先順位の相続人が全員相続を放棄した場合、遺産の相続権が後順位の相続人に移ります。

例えば配偶者と第一順位の相続人であるお子様が相続を放棄した場合は、第2順位の直系尊属(ご両親あるいはご両親がお亡くなりで祖父母が健在であれば祖父母となります。)、第2順位の方がすでにお亡くなりの場合は第3順位の兄弟姉妹へと相続権が移っていきます。
例えば、第3順位の兄弟姉妹に相続の順番が回ってきた場合、前順位の配偶者/お子様/ご両親等が相続を放棄したことを知ってから3ヶ月となります。

では、相続のやり方には「相続放棄」含めてどの様な手続きがあるのでしょうか。なお、単純承認、限定承認、相続放棄の内容については「H30.7.5限定承認ってどんな方法」でも取り上げていますので、ご興味のある方は参照下さい。

①単純承認

単純承認とは、財産をプラスもマイナスも全て相続するということであり、単純承認を選択する場合、手続きをする必要はありません。相続開始を知った日から3ヵ月以内に限定承認の手続きも相続放棄の手続きもしなかった場合は自動的に単純承認したことになります。

②限定承認

限定承認とは、相続で得た財産の範囲内で負債を負うが、相続で得た財産よりも負債のほうが多くなってしまった場合は、はみ出た負債を負わなくていいという手続きです。
逆に、プラス財産とマイナス財産を清算し、プラス財産のほうが多くなれば、プラスのはみ出た財産を相続できます。
限定承認手続きも、相続が開始されたこと知ったときから3ヶ月以内に手続きをします。

被相続人の財産をはっきりと把握できない場合などは、この「限定承認」という手もあります。

なお、後述の相続放棄の申し立ては、相続人それぞれが単独で申し立てできますが、限定承認の申し立ては、共同相続人全員が手続きに参加しなければいけませんので、ご注意ください。

③相続放棄

最後に相続放棄です。「放棄」の言葉通りで、マイナスの相続財産=負債、借金が多い場合には、相続人はマイナスの財産、プラスの財産の一切合切を放棄することができます。
この放棄の手続きが出来る期間が、相続が開始されたことを知ったときから3ヶ月以内となり、「相続を放棄する」旨を家庭裁判所に申し立てなければなりません。

相続の放棄に関しては、相続する順位の高い相続人から順次していきます。
被相続人に配偶者とお子様がいらした場合、その配偶者とお子様が相続放棄をした後に、第2順位の相続人であるご両親に相続権が移りますので、配偶者とお子様の相続放棄を受理され、自分が相続人であることを知った時から3ヶ月以内に、そのご両親も相続放棄することができます。

いかがでしたでしょうか。
相続放棄・限定承認は、相続が開始されたことを知ったときから、原則3ヶ月以内に決定し手続きしなければいけません。ですが、どうしても相続財産の全貌が分からず相続のやり方が3ヶ月以内に判断できないときには、家庭裁判所に「熟慮期間伸長の申し立て」をすることで、その期限を引き延ばすことができます。

「相続財産を調べたが、どうしても一部はっきりしない部分がある」という方は、「熟慮期間伸長の申し立て」をご検討ください。とにかくお困りの時には、一度我々のような専門家にご相談頂けると幸いです。

相続手続きを放っておくことによる5つのリスク

相続手続きは面倒な手続きも多く、ついそのままにしてしまう場合も少なくありません。けれども、必要な手続きをせず、相続を放っておくことはさまざまなリスクの可能性につながります。
手続きがさらに複雑化したり、場合によっては相続人のデメリットとなったりするケースも考えられるのです。
相続手続きを行わない場合の問題点、リスクは以下の5つです。

相続人の間の権利関係がより複雑になってしまう

人が亡くなると、持っている家やマンション、土地などの不動産の相続が発生します。そこで、故人の不動産の名義を相続人に変更する手続き、相続登記を行わなくてはなりません。
重要な手続きである相続登記ですが、これまで特に期限は定められていませんでした。
ですから不動産の名義は故人のままになっているケースが多く存在します。

名義が故人のままの不動産は、法定相続人全員の共有財産と見なされます。
さらに次の子どもの代に至るまでそのまましておくとさらに相続が発生することになります。
故人から子、孫と代々不動産が共有され、相続人がどんどん増え、権利関係が複雑化することは明らかでしょう

遺産の不動産の売却・担保設定ができなくなってしまう

相続の手続きをそのままにし、故人の名義から変更しないでいると、相続人の共有財産になるとお伝えしました。
代が変わるごとに、相続人は増え続け、権利関係がややこしくなります。
人が増えると、不動産の相続についての話し合いもまとまらず、困難を極めることになるでしょう。

例えば相続した誰かが土地を売却したいと思っても、相続人全員の同意を得なければなりません。不動産の担保設定も同様に難しくなります。
相続した不動産を賃貸に出したり、リフォームを考えたりすることも一存では決められません。
所有財産として自由に扱うことは難しくなるでしょう。

他の相続人が勝手に法定相続分による登記をし、その持分を他人に売却してしまう可能性がある

遺産分割協議をしていなくても、法定相続人のうちの1人が、単独で全相続人の法定相続分による登記をすることができます。
例えば法定相続人がABCDの4人いた場合に、Aが勝手に相続登記をした後、A持分をXに売却すると、BCDの知らないうちに当該不動産はBCDとXの共有となります。そして多くの場合、そのXは「不動産会社」です。その後Xは、BCDにも買取を交渉してくるでしょう。
相続発生後、放置することなく、相続人全員で遺産分割協議をし、相続登記及び売却をしていれば、それなりの金額で売れた不動産も、持分ごとの売却となると想像以上に安値になってしまうことがほとんどです。

相続人が認知症等を患ったりすると遺産分割協議が難航する可能性がある

相続人の中には高齢の方もいらっしゃるでしょう。
相続時には問題がなくても、時間の経過と共に、認知機能が低下するおそれもあります。相続人が認知症を発症するなど判断能力に問題があると判断されると、遺産分割協議を行うのが難しくなります。
判断能力が不十分だとみなされた方の意思表示は法的に認められないからです。

遺産分割協議は相続人全員の合意は必要ですから、判断能力が低下した相続人の代理人として成年後見人を選任しなくてはなりません。
成年後見人の選任手続きには時間がかかりますし、相続人本人と話すよりも煩雑になることが予想されます。

相続人の債権者によって差し押さえられる場合がある

相続人の中に、第三者から借金をするなど債務を抱える人がいる場合、相続財産を差し押さえられるリスクもあります。
相続人である債務者に代わり、第三者である債権者が相続登記を行う(代位登記)ことができるからです。

金融機関からの借金だけでなく、税金の滞納などの差し押さえとして代位登記が行われるケースもあります。
差し押えがされると当然に登記簿謄本にその旨が記載され、債務の返済なしでは売却は難しくなります。差押えをされた相続人が近しい親族ならまだしも、相続登記を放置している状況では、一度も会ったことのない遠い親戚ということもあり得るでしょう。今後の話し合いの場を持つことも困難を極めることでしょう。

相続手続きを放っておくと取り返しのつかないトラブルになることも…

相続手続きにはペナルティはありません(実質ペナルティに匹敵するリスクやコスト加算はあります)。そのため何となく後回しにされてきた部分があります。
しかし、手続きを放置しても、相続した時点で相続人として法的な責任を持つとみなされます。相続した不動産には固定資産税も発生しますし、所有者として管理する責任も生じます。

時間の経過と共に、財産を共有する相続人が増え、気づいた時には収拾がつかない状態になる例もしばしば起こります。
相続人が少ない時なら話し合いで解決できたことも、権利関係が複雑化するにつれ、難しくなっていきます。
相続人が多くなればなるほどトラブルも大きくなり、コストも必要になるのです。
極端な例では、調停や裁判のトラブルに発展することもあり得るのです。

相続手続きを放置するとマイナスになる

相続手続きを放っておくと、相続人が増えて手続きが煩雑化、結果的に時間をロスすることにつながります。
集める戸籍の量は膨大になり、遺産分割協議するにも連絡先もわからない、連絡がついてもスムーズにいかず、かなりの時間を要すなど、挙句の果て手続きが頓挫したり、裁判に発展する可能性も高くなります。
相続登記に関係するさまざまな問題から、国も相続登記の義務化へと舵を切り、2024年を目途に施行すると報道されています。
不要なトラブルを回避するためにも、相続手続きは先延ばしにせず、迅速に行うことをおすすめします。
清澤司法書士事務所では税理士をはじめ他士業とも連携し、相続に関する手続きをワンストップでご提供しております。
相続についての疑問点やお困りごとがあれば、実績も豊富な私たちにお気軽にご相談ください。

 

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この記事の執筆・監修

清澤 晃(司法書士・宅地建物取引士)
清澤司法書士事務所の代表。
「相続」業務を得意とし、司法書士には珍しく相続不動産の売却まで手がけている。
また、精通した専門家の少ない家族信託についても相談・解決実績多数あり。

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