相続が発生すると被相続人が所有していたすべての財産を法定相続人で遺産分割をして相続する必要があります。
しかし、財産の中には誰も相続したくない土地や管理することが難しい田舎の土地、原野商法で購入してしまい保有している土地などもあるでしょう。このような土地がある場合に国に帰属させることができる法律があることをご存知でしょうか。当記事では相続土地国庫帰属制度の概要と山林や農地などを国に帰属させる際の注意点について解説します。
目次
相続土地国庫帰属制度とは
相続土地国庫帰属制度は相続や遺贈により土地を取得した人が国に帰属させることができる制度です。この方法を利用することで、引き取ってもらった土地の所有者は国にうつるため自分のものではなくなり、使用や処分する権利を失いますが、固定資産税の負担や管理の負荷がなくなります。
この制度の承認申請をすることができる人は相続・遺贈により土地を取得した者ですが、単独で取得した人は単独で行うことができ、共有となっている場合は共同で申請することができます。
従来、相続した不動産は登記が義務化されていませんでしたので相続人間で争いになって分けられない土地や、登記がされずに放置されているため持ち主不明の土地が多くあり社会問題ともなっています。社会の要請に応じて不要な土地はできる範囲で国に帰属させることで活用することができるように定められた制度です。
申請の流れ
相続土地国庫帰属制度を利用する際の手続きの流れについて解説します。
まず、土地を取得した人が管轄の地方法務局の窓口に承認申請を行います。承認申請の際は審査手数料は一筆あたり14,000円の費用が必要です。
申請が受理されると法務大臣による要件審査が行われます。法務省による審査は書面での確認と実地調査が行われます。審査のために必要な資料の提出を求められる場合があります。現地での測量など職員の調査に協力しない場合、法令により罰せられる可能性がありますので、しっかりと調査に協力するように対応しましょう。
審査の要件は厳しく、担保権が設定されている場合、通行権など他人が使用できる土地や境界が明らかでない場合、土壌汚染が確認される場合、勾配や崖が急で管理が難しい土地、隣接する土地の所有者と権利関係が明確でなく調整が必要なケース、地下に産業廃棄物や有害物質が埋まっているケースなどは審査が通りません。
山林や農地などでも申請し、許可が下りることはありますが、実際には様々な条件がありますので、条件に合致していないと基本的には承認がおりることはありません。
承認が下りた場合は審査手数料とは別に別途土地の面積等により一定の負担金がかかります。負担金を納付することで土地の権利を国に移転させることができます。
制度を利用する際の注意点
相続土地国庫帰属制度を利用する際にはどのような点に注意をすればよいのでしょうか。具体的に確認しておきましょう。
必ず承認されるわけではない
この制度の利用を希望する場合は法務局に申請書を提出することになりますが、法務局が確認をした結果、土地の状態によりさまざまな理由があり実際に却下されるケースも多いです。条件も厳しいため何らかの問題があり却下され不承認となった時は所有権を移転することができませんし、審査手数料は返還されません。労力と費用をかけても必ず手放すことができるわけではないので注意が必要です。
どうしてもその土地を相続したくない場合は相続放棄をすることも可能です。ただし、相続放棄をすると他の財産も相続することができなくなりますので、よく検討する必要があります。
再度取り戻すことはできない
土地を国に帰属させた後に将来、近隣の地域で大きな新駅や新たな土地開発予定の情報により宅地としてアクセスがよくなり収益性が増すため土地の価格が急騰する可能性もあります。このようなケースでも一度手放した土地は、申請を取り下げて取り戻すことはできません。
本当に手放してもよい土地かよく確認して申請するようにしましょう。
判断に迷う場合は専門家に相談を
相続が開始するとさまざまなことを判断する必要があります。遺産の配分や宅地の評価など慣れていない人も多く、自身で行うことは簡単ではありません。
自分で評価額を算定することが難しい場合や判断に迷う場合は税理士等の専門家にサポートを依頼することをおすすめします。財産が基礎控除以下の場合は申告は必要ありませんが、超える場合は相続税の申告が必要です。相続税の申告は、被相続人が死亡した翌日から10ヶ月以内と期限も短いです。相続税の計算をするためには預貯金や株式、土地・建物、金等の現物資産も評価する必要がありますので財産を一覧にまとめたものを作成し相談に行くと良いでしょう。
また、誰が何を相続するか決まらない場合は弁護士を交えて決着させるケースもあります。事前に遺言が作成されていない場合は話し合いに時間がかかることも多いです。折り合いが付かないケースは共有で相続するという事例もありますが、共有にすると後々の不要なトラブルを招くことにもなります。相続財産をどう分けるかは時間を要することも多く、専門家のアドバイスを受けて検討した方が良いでしょう。
できれば、相続の相談は生前にしておくことをおすすめします。生前に相談することで、遺言書の作成や生前贈与などメリットの大きいさまざまな対策を検討することができます。結果的に家族の負担を大きく減らすことができるでしょう。
税理士や弁護士、司法書士にも得意分野がありますので、相続関連の手続きを中心に運営する事務所に相談するとよいでしょう。まずは電話やメールで気軽に連絡してみるとよいでしょう。