
人が亡くなったあとに財産をどう分けるか―これを「遺産分割」といいます。多くの家庭で悩みの種になるのが、この遺産分割の話し合いです。
もし遺言書が残されていない場合は、法律で決められた相続人全員が集まって話し合いをし、財産の分け方を決めなければなりません。
ところが、相続を放棄していない相続人の中に一人でも「その分け方には納得できない」と言う人がいると、話し合いがまとまらず、手続きを進めることができなくなります。
この記事では、遺産分割で合意に至らないときにどう対応すればよいのかをわかりやすく解説します。相続人同士の話し合いが難航するケースは珍しくありません。トラブルを防ぐための知識として、ぜひ参考にしてください。
目次
- 遺産分割で揉めるケース
- 相続人が多い
- 価値の高い不動産がある
- 遺留分を侵害する遺言書が作成されている
- 多額の生命保険が契約されている
- 生前に介護をしている・贈与を受けている
- 財産が後から出てきた場合
- 離婚した妻の間に子がいる
- 弁護士に相談する
- 裁判を行う
- トラブルになりそうな場合は早めに専門家に相談を
遺産分割で揉めるケースとは
人が亡くなったあとに財産を分ける「遺産分割」。本来は相続人同士で話し合って決めるものですが、実際にはトラブルになることが少なくありません。ここでは、よくある揉めるケースを紹介します。
相続人が多い場合
相続人が多いと、全員で集まって話し合うことが難しくなります。兄弟姉妹だけでなく、代襲相続(親が亡くなっている場合に子ども=甥や姪が代わりに相続すること)があると、相続人が10人以上になることもあります。
相続人が多ければ多いほど合意をするまでに時間がかかる事例が多いです。
価値の高い不動産がある場合
東京や大阪など大都市圏でアクセスの良い場所に土地がある場合、一つの不動産が財産の大半を占めるケースがあります。持ち主が亡くなった後にその不動産を誰か一人が相続すると配分が大きく偏ってしまうため、配分で揉めるケースが多いです。
また、共有にしてすると、分割して登記することでスムーズにできるケースが多いですが、相続後に不動産の処分や有効活用を巡ってトラブルになることもあります。
遺留分を侵害する遺言書が作成されている場合
遺言書があれば安心と思う人もいますが、遺留分(配偶者や子に必ず認められる取り分)を侵害しているとトラブルになります。遺留分を侵害された相続人は、必ずその分を請求できる権利を持っているため、遺言書があっても争いになることがあります。事前に計算を行い、遺留分を侵害しない分け方にしておく必要があります。 費用はかかりますが、トラブルとならない遺言を作成するために司法書士等の専門家に相談することをおすすめします。初回の相談は無料で応じてくれる法律事務所も多いので、電話やメールで相談してみるとよいでしょう。
多額の生命保険が契約されている場合
生命保険の死亡保険金は税金上は「みなし相続財産」として扱われますが、遺産分割の対象外です。ところが、一人の相続人に多額の保険金が渡ると不公平感が強まり、過去には裁判で「遺留分に含めるべき」とされた事例もあります。契約内容を確認しておくことが重要です。
生前に介護をしている場合・贈与を受けている場合
生前に介護をしている場合、寄与分を主張して法定相続分よりも多くの財産を主張するケースが多いです。しかし、介護で寄与分が認められることは少なく、法定相続割合通りで配分することも多くなります。
また、特定の家族に贈与税の基礎控除の範囲内で生前贈与を受けている場合も他の相続人から特別受益を指摘され問題となり、遺産分割協議が成立しないことがあります。事前に贈与を受けた分が実質的に不公平になっていることが納得いかず、トラブルになるケースが多くありますので、贈与をする場合は相続時にどうするかも決めておくほうがよいでしょう。
生前贈与や介護をしている状況だとそれぞれの主張があり、不公平だと感じるケースが多いので、注意が必要です。
財産が後から出てきた場合
被相続人の財産を調査しても取引金融機関などがわからないケースが多くあります。財産の調査が不十分なまま遺産分割協議を行って、後から財産が出てきた場合、再度話し合いをすることになりますが、そこでトラブルになるケースも多いです。そのため、最初に財産の内容をしっかりと把握して一覧を作成してから遺産分割協議を行うことが重要です。
離婚した妻の間に子がいる場合
離婚した妻の子と後妻の子がいる場合、財産配分がスムーズにいかないケースが多いです。前妻の子と後妻の子は法的には全く同じ権利を持ち、遺留分もあります。感情的になり解決策が見いだせなくなる可能性も高いことから相続が発生する前にしっかりと検討し、遺言を作成した方がよいでしょう。
遺産分割協議がまとまらない場合の対応方法
相続人同士で話し合っても解決できない場合、どのような対応方法があるのでしょうか。
弁護士に相談する
相続の話し合いでは、感情がぶつかってしまい話が進まないことがあります。 弁護士に相談すると、
- 法律にもとづいて「どう分けるのが適切か」を教えてくれる
- 相続人同士の連絡や交渉を代わりにしてくれる
- 必要なら家庭裁判所の手続きもしてくれる
などのメリットがあり、話し合いが進みやすくなります。
家庭裁判所の「遺産分割調停」を利用する
どうしても相続人同士で合意できない場合、 家庭裁判所の「調停」という方法を使います。
● 調停とは?
- 調停委員という第三者が間に入って話を整理してくれる
- 裁判ほど難しくはなく、話し合いが中心
- 相続人同士が直接会わずに手続きを進められることもある
「審判」で裁判官が決める
調停で意見がまとまらない場合、次は 審判という手続きに移ります。
- 裁判官が、法律と状況を見て「財産をどう分けるか」を決める
- 相続人は、その決定に従う必要がある
ただし、「時間がかかる」「費用も増える」「家族関係が悪くなることもある」ため、審判は“最後の手段”と考えるのが一般的です。
公証人や司法書士に相談する
次のようなサポートを受けられます。
● 司法書士
※ただし、相続人同士の「トラブルの交渉」はできません。
● 公証人
- 公正証書遺言の作成
- 将来のトラブルを防ぐのに役立つ
※すでに起きている相続争いを調整する立場ではありません。
家族信託など事前の仕組みを利用する
近年は「家族信託」という制度を使って、財産の管理や分配を事前に決めておくケースも増えています。これにより、相続発生後のトラブルを減らすことができます。
トラブルになりそうな場合は早めに専門家に相談を
遺産分割の話し合いで関係が悪化してしまった場合、話し合いにより解決することが難しくなるケースが多いです。トラブルになる可能性がある場合は早めに専門家にサポートを依頼し、対応を進める方が良いでしょう。
実績のある弁護士や司法書士の経験や知識を利用することで未然にトラブルを防ぐことが可能となります。遺言書の作成など生前の対策についても専門家に相談し、対応を行う方が良いでしょう。
また、財産の総額が基礎控除を超える場合は相続税の申告が必要です。相続税の申告は被相続人の死亡の翌日から10ヶ月以内に、税務署に申告書を提出する必要があり、時間がありません。相続税の申告を自分で行うことが難しい場合は税理士に相談するようにしましょう。















