相続が発生すると民法で定められている法定相続人はプラスの相続財産を分割して引き継ぐ権利を持ちますが、同時に借金や損害賠償など本人が持っていた債務についても支払う義務を承継します。
相続人が債務を引き継いだ時はどのように対応すれば良いのでしょうか。当記事では債務を抱えたまま亡くなった人の法定相続人になった場合の対処方法について解説します。
目次
誰が債務を引き受けるか決める必要がある
被相続人に債務があり、法定相続人が複数いる場合は誰が債務を引き継くかを決める必要があります。不動産を担保にしている債務であれば、基本的には不動産を引き継ぐ者が債務も一緒に引き継ぐことになります。
債権者も誰に主張すれば良いのかわからなくなってしまうので、債権者には債務を引き継いだことを相手形に連絡する必要があるでしょう。金融機関などから借入をしている場合は所定の手続きを経る必要があります。
住宅ローンの場合は債務者が死亡した際に、団体信用生命保険で債権回収をすることが一般的です。例えば、父が住宅ローンの債務者であれば、父親名義で自宅を取得したときに生命保険に加入して、相続が発生すると同時に債務が弁済されるので、妻や子など相続人は弁済する必要はありません。
債務を引き継ぎたくない場合の対応方法
そもそも金額が大きく、各種債務を引き継ぎたくない場合はどのように対処すれば良いのでしょうか。具体的な対処方法を解説します。
相続放棄
相続放棄とは民法第915条で定められており、プラスの遺産もマイナスの財産も引き継ぐ権利・義務を放棄することです。相続放棄を行うと初めから相続人ではなかったことになり、債務から免れることが可能です。相続放棄をするためには相続発生の翌日から3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄の申立てを行う必要があります。
被相続人が多額の借金をしていて、プラスの財産を上回る借金がある場合は、相続放棄をすることで、被相続人が契約していた債務から免れることができます。しかし、相続放棄をすると全ての財産を引き継ぐ権利を失います。借金がある場合でも東京など地価の高いエリアに自宅がある場合は売却するだけで、十分に債務を返済できる可能性があります。
一部だけ放棄をするということはできません。また一度放棄が確定すると変更することはできませんので、手続きをする前に慎重に検討して判断するようにしましょう。また、遺産の処分を行なった場合は単純承認で遺産相続したものとみなされて相続放棄をすることができなくなります。思った以上に財産があった場合でも、相続放棄は撤回できませんので、注意が必要です。
相続放棄を行うと、他の相続人の負担が大きくなります。他の相続人が連絡を受ける時には既に3ヶ月経過していると、その相続人は相続放棄を選択することができません。相続放棄をしたことが理由でその後でトラブルになる事例も多いので、相続放棄をすると判断した時点で他の相続人にも連絡をし、理由も含めて説明するようにしましょう。
限定承認
限定承認とは被相続人のプラスの財産の範囲で借金などマイナスの財産を返済する制度です。被相続人のマイナスの財産の額がどれくらいあるか把握できない場合に有効な手段です。
相続放棄は個人が単独で行うことができますが限定承認は相続人全員で行う必要があります。申立ての期限は相続放棄と同じく相続開始から3ヶ月ですが、他の相続人の同意を得る必要があります。そのため、他の相続人との関係が疎遠な場合は話し合いで問題が発生し、時間がかかる可能性があります。トラブルを回避するために早めに他の相続人にも限定承認を検討していることを通知して準備をするようにしましょう。
相続人が債務を返済しない場合、財産を差し押さえられる可能性がある
相続人に債務を返済する義務が引き継がれている状況にも関わらず相続人が返済しなかった場合は、相続人に直接債権者から督促がきます。滞納し続けて、督促にも応じず返済を行わなかった場合、裁判所に訴訟が提起され、最終的には裁判で判決がでて強制執行により債権に基づいて相続人の財産を債権者が差し押さえることになります。現在利用している不動産でも差押えした後は競売にかけ、得られた金銭等から債務の支払を行うことになります。
被相続人の債務を自分の債務ではなく免責されると考え、債権者から請求されても放置をしていると元々保有していた財産も差し押さえられる可能性がありますので注意しましょう。
不明点は専門家に相談を
今回は債務の引継ぎについて解説しましたが、不動産の登記や金融機関の名義変更など相続に関する法律や事務的な手続きは複雑ですので何から始めていいかわからないとお悩みをかかえている方も多いでしょう。ホームページなどに書類の記載方法などは掲載されていますが、慣れていない人が書類を作成するのは大変な作業です。特に債務がある時は相続放棄や限定承認を検討する必要が生じるケースもあります。期限も短く、判断を誤ると後々自分が苦労することになります。
自身で判断することに不安がある場合は相続関連の手続を業務として行っている司法書士や弁護士が所属する法律事務所や税理士が所属する税理士法人などの専門家に相談する方が良いでしょう。また、財産が基礎控除以下であれば、相続税の申告は必要ありませんが、基礎控除を超える場合は被相続人が亡くなってから原則10ヶ月以内に税務署に相続税の申告書の提出と支払いを完了させる必要があります。短い期間で遺産分割の方法を決定し、手続きを進める必要がありますので、預貯金や株式、土地・建物、金などあらゆる財産を一覧にし、相続税の申告が必要か確認するようにしましょう。