
「これは捨てていいの?」「これって相続税の対象になるの?」
遺品整理の現場では、そんな迷いや不安の声をよく耳にします。
実は、時計や美術品、コレクションなど、一見「思い出の品」に見えるものでも、相続税の対象になることがあります。最近では遺品整理会社をテーマにしたドラマも話題になり、「遺品=財産」という意識が少しずつ広まっています。
この記事では「意外と見落とされがちな相続税対象の遺品」と「後悔しない生前整理のコツ」について、具体例を交えながらわかりやすく解説します。
目次
高級時計も記念硬貨も? 相続税の対象になる“モノ”の見分け方
相続税の申告期限は、相続開始(亡くなった日)から10か月以内です。この間に、すべての財産を把握し、評価し、申告する必要があります。ところが──
「これは財産じゃないと思っていた」
「使う予定だったから申告しなくていいと思った」
「古いから価値はないと思っていた」
こうした思い込みによって申告漏れが起きると、延滞税や加算税(最大20%)が課されることもあります。
税務署は、預金の動き、不動産登記、高額品の売却履歴などをチェックしており、「知らなかった」では済まされないのが現実です。特に子ども世代にとっては、親の持ち物の価値や背景を知らないまま申告を進めることが多く、負担も大きくなりがちです。
相続税の対象になるのは、現金や預金だけではありません。美術品、骨董品、貴金属、高級時計など、市場で価値があると判断されるものは、すべて「財産」として課税対象になる可能性があります。以下に、よくある事例をご紹介します。
💍 愛用していた「金のアクセサリー」
「高級品なのは知っていたが、相続税の対象になるとは思っていなかった」
そんな例は意外と多いのです。たとえ子どもがそのまま使う場合でも、相続時点での評価額に基づいて申告が必要になる可能性があります。
金預金(銀行の金積立など)も金融資産として相続税の対象になります。
2025年現在、金価格は1gあたり1万円前後の高水準で推移しており、評価額が想定以上に高くなるケースも少なくありません。「小さな金アクセサリー」でも、複数を合計すると申告対象になるほどの金額になることがあります
🖼️ 趣味で集めていた「絵画・骨董品」「古銭・記念硬貨・切手」
「趣味の品だから税金とは無縁」と思われがちですが、市場価値があれば課税対象になります。特に美術品・骨董品は評価が難しく、見落としやすい資産です。
たとえば東京オリンピック記念1万円銀貨などの記念硬貨、希少なデザインや未使用・美品の場合は、市場価値が額面を超えるケースもあり注意が必要です。
海外の金貨(メイプルリーフ金貨・ウィーン金貨など)は、金としての素材価値で評価されるのが一般的で、純金製の記念硬貨シリーズなどは、発行当初より価格が上昇しているものもあります。
切手については、プレミア切手(希少・発行枚数が少ないもの)は、コレクター市場で高値がつくこともあり、申告対象になる可能性があります。
相続税評価では、大量・高額・希少な場合は専門業者の査定書を添付すると安全です。
実務上は、切手ブックごとに額面合計で申告するケースが多く、一覧化しておくと申告漏れを防ぎやすくなります。
💴 旧札(昔のお札)のタンス預金
「預金口座にない現金は申告するの?」「古い紙幣はどう扱うの?」こうした疑問もよく聞かれます。
実は、現金は“見つけた時点”で相続税の申告対象となるため、タンス預金は税務署が特に注視する項目のひとつです。
旧札(例:夏目漱石・聖徳太子など)は、日本銀行で額面通りに交換可能ですが、保存状態が良いものや発行枚数が少ないものは、コレクター市場でプレミアがつくこともあります。さらに、2024年に新紙幣(渋沢栄一デザイン)が発行されたことで、旧紙幣の人気が再燃。
保存状態の良い旧札は骨董市場での流通価格が上昇傾向にあり、思わぬ高額評価につながるケースもあるため見落とさないように気を付けましょう。
終活世代が持つ“価値あるモノ”とは?
終活世代が持っている品々には、家族の記憶を支える「感情的価値」と、市場で評価される「金銭的価値」の両方が存在します。しかし、どちらの価値も見落とされやすく、相続税の申告漏れや家族間のトラブルにつながることがあります。
そして重要なのは、それを手放す場合も、受け継ぐ場合も、相続税の対象になる可能性があるということです。
終活世代が持つモノは、大きく分けて「手放したいもの」と「受け継ぎたいもの」に分かれます。以下はほんの一例です。
| 手放したいもの | 受け継ぎたいもの |
| 婚礼家具、着物、食器セット | 昭和レトロのバッグ、アクセサリー |
| 大量の切手や記念硬貨 | 手書きのレシピ帳、日記帳 |
| 趣味のコレクション(茶道具、絵画など) | 家族の記憶が詰まったアルバムや手紙 |
🔸 手放す場合の注意点
「もう使わないから処分したい」と思っていても、売却=現金化されるため、相続税の申告対象になります。特に、着物や食器セット、茶道具などは、専門業者の査定で高額になることもあり、見落としがちです。
🔸 受け継ぐ場合の注意点
「使うから非課税」と思いがちですが、相続時点での評価額に基づいて申告が必要です。
昭和レトロのバッグやアクセサリーなどは、若い世代に人気があり、思わぬ市場価値がつくことも。
また、手書きのレシピ帳や日記帳、アルバムや手紙などは、金銭的価値はなくても、家族にとっては“整理しがたい大切なもの”になることがあります。
終活世代にとっては「思い出の品」でも、子世代には「価値がわからないモノ」が多くあります。逆に、子どもが「これは残してほしい」と思っているものを、親が「もういらない」と処分してしまうことも。たとえば──
- 母親が「もう着ないし、保管も大変だから処分したい」と考えている着物でも、娘にとっては「一度袖を通してみたい」「最後に一緒に広げてみたい」という願いがある
- 祖母が「ただの古いノート」と見なしていたレシピ帳を、孫は「一緒に作ってみたい」と思い、料理を再現してSNSで紹介するなど、家族の味を今のかたちで受け継ぎたいと願っている
- 祖父が「古くてもう使えない」と思っていたフィルムカメラを、孫が「レトロでかわいい」「今こそ使ってみたい」と興味を持ち、SNSや動画で紹介するなど、若い世代の間で再評価されているケースもある
親子孫世代間の"価値観ギャップ"を埋めるために
👉 生前に自分で整理する
👉 家族と一緒に話しながら整理する
この2つが、申告漏れを防ぎ、家族の心も軽くする最も確実な方法といえます。
世代ごとにモノへの価値観が異なる今だからこそ、何を残し、どう受け継ぐかを家族で見直すことが、心の整理にも、相続の準備にもつながります。
生前整理の肝。手放す、受け継ぐ─見極めの方法
生前整理の目的は、「捨てる」ことではなく、「残すもの」「手放すもの」を自分で見極めること。その判断には、金銭的価値だけでなく、家族にとっての意味や記憶のつながりも含まれます。
しかし、いざ整理を始めると、「これは残すべき?」「これは捨ててもいい?」と迷う場面が必ず出てきます。そこで、実践的な整理のコツをご紹介します。
✅ 「売る」ではなく「価値を知る」ためのツールを使う
- メルカリやヤフオクなどのフリマアプリは、思い出の品に“市場の目”を通す手段になる
- 「売る」ことが目的ではなく、「どれくらいの価値があるのか」を知ることで、家族で納得しやすくなる
- 子ども世代が得意なアプリを活かすことで、親の記憶を引き出すきっかけにも
✅ 迷ったら「保留箱」に入れる
- 「今は判断できない」「思い出が強すぎて手放せない」という品は、“迷い箱”や“保留ボックス”にまとめておく
- 一度距離を置くことで、時間が経ってから冷静に判断できることも
- 箱には「〇月までに見直す」など、期限をつけておくと整理が進みやすい
✅ リメイクや再活用で“使える形見”に変える
- 着物をバッグや小物にリメイク、古い食器を花器に再利用するなど「使える形見」にすることで、残す理由が明確に
- 「残すか捨てるか」ではなく、「形を変えて残す」という選択肢がある
- 普遍的に価値のあるブランド品やアクセサリーなどは、家族でシェアしながら残す
- 希少な書籍や文献などは、図書館や研究機関への寄贈することで、公共の資産として活かす方法もある
✅ 写真記録+クラウド保存で“記憶の整理”を進める
- 処分予定の品でも写真に残し、「記憶」として受け継げる
- GoogleフォトやDropboxなどを使えば、家族で共有しながら整理できる
- 特にアルバムや手紙などは、スキャンして保存することで劣化や紛失を防げる
✅ やんわり財産目録をつくりはじめる
- 金銭的価値のあるものは「財産目録」に、感情的価値のあるものは「思い出ノート」に記録
- 書きながら「自分の価値観」や「家族への想い」が整理されていく過程でメモを残すと家族にとっても判断の手掛かりになる
✅ 家族会議で“残したいもの”を話し合う
- 「これは誰が使う?」「残しておきたい?」といった問いかけを通じて、感情的価値を共有する場をつくる
- レシピ帳やアルバムなどは、誰かが引き継ぐと決めるだけで整理が進みやすくなる
- リスト化とあわせて格納場所を決めておくことで、のちのち家族が探す手間や判断の迷いを軽減できる
👉 エンディングノートに書くことから始めてみては?
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まとめ: 生前整理は、今後の暮らしにも活きる
遺品の中には、相続税の課税対象となる財産が含まれていることがあります。
👍生前整理をしておくことで得られる3つのメリット
- 財産の把握:どんなものがあるか、本人が一番よく知っている
- 申告漏れの防止:相続税の対象になるものを事前に確認できる
- 家族の負担軽減:思い出の品を巡る迷いや不安を減らせる
遺品は思い出だけでなく、税務上の「財産」として扱われることがあります。申告漏れや相続トラブルを防ぐためにも、今から少しずつ生前整理を始めてみませんか?
生前整理は「終わらせる作業」ではなく、これからの暮らしをすっきりと整えるための第一歩でもあります。一度整理を経験することで、今後手に入れるモノにも自然と目が向き、「本当に必要か」「誰かに残したいか」といった視点で選べるようになります。
それは、自分らしい人生を軽やかに歩むための習慣づくりにもつながります。
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