精神疾患がある人は遺産が相続できる?遺産分割や成年後見制度について解説

目次

精神疾患があっても、原則として法定相続人であれば遺産を相続できます。
精神疾患や精神障害があることだけを理由に、相続人としての権利がなくなるわけではありません。
ただし、相続が発生して遺産分割協議を行う際には、本人に内容を理解して判断できる能力が必要です。
精神疾患の状態によって本人の判断能力が不十分な場合は、成年後見制度の利用が必要になるケースもあります。

この記事では、精神疾患がある人の相続について、遺産分割協議の進め方や成年後見人を選任する方法、相続手続きの注意点などを解説します。

精神疾患がある人でも遺産は相続できる

精神疾患がある人でも、相続人として遺産を相続できます。
精神疾患があるという理由だけで、相続する権利が失われることはありません。
ただし、遺産分割協議などの相続手続きを行うには、本人に一定の判断能力や意思能力が必要とされます。
そのため、精神疾患がある相続人がいる場合は、病名だけで対応を決めるのではなく、本人が遺産分割の内容を理解して判断できる状態かを確認することが重要です。

精神疾患があっても相続人としての権利はなくならない

精神疾患がある人も法律上の相続人(法定相続人)に該当すれば、他の家族と同じように相続する権利があります。
例えば、亡くなった人の子に精神疾患があったとしても、そのことだけを理由に相続人から外すことはできません。
また、相続人が複数いる場合、遺言書がなく遺産分割が必要であれば原則として相続人全員で協議する必要があります。
精神疾患がある相続人を参加させず、他の相続人だけで財産の分割方法を決めることはできないため注意しましょう。

相続手続きでは本人の判断能力が重要になる

精神疾患の症状や状態は人によって異なるため、診断を受けているだけで遺産分割協議ができないと判断されるわけではありません。
本人が相続財産や遺産分割の内容を理解し、自分の意思で判断できる状態であれば、自ら協議に参加できます。
一方、精神障害などによって判断能力が不十分な場合には、協議に参加したり相続放棄などの判断をしたりするのは困難です。
本人が遺産分割の内容を理解できる状態か判断に迷う場合は、医師や弁護士などの専門家へ相談して対応を検討しましょう。

精神疾患がある相続人との遺産分割はどう進める?

遺産分割の方法は、遺言書の有無や精神疾患がある相続人本人の判断能力などによって異なります。
遺言書がなく、相続人が複数いる場合は、相続人全員で遺産分割協議を行うのが一般的です。
ここでは、基本的なケースや流れをご紹介します。

遺言書がない場合は相続人全員で遺産分割協議を行う

遺産分割協議では、預貯金や不動産などの相続財産を誰がどのように取得するのかを話し合います。
協議の内容について全員が合意したら、遺産分割協議書を作成し、その後、協議書の内容に沿って預貯金の名義変更や不動産の登記などの手続きを進めます。
精神疾患がある相続人も、判断能力に問題がなければ本人が協議に参加が可能です。
判断力があると判断されているのに協議に参加していない場合は、協議が無効になる恐れもあるので注意が必要です。

判断能力があれば本人が遺産分割協議に参加できる

精神疾患がある場合でも、本人が遺産分割の意味や内容を理解し、自ら判断できれば、成年後見人を選任せずに協議を進めることが可能です。
そのため、「精神疾患があるから成年後見制度を利用する」と一律に判断するのではなく、本人の状態を確認する必要があります。
また、精神疾患の状態は変化することもあります。家族だけで判断することが難しい場合は、必要に応じて医師などへ相談するとよいでしょう。

意思能力を欠いた状態で行った遺産分割協議は無効になる

遺産分割協議も法律行為であるため、本人に意思能力が必要です。
本人が協議の内容を理解できない状態にもかかわらず、家族が代わりに遺産分割協議書へ署名したり、本人に署名させたりして手続きを進めることは避けましょう。
意思能力を欠いた状態で行われた法律行為は無効となるため、後から遺産分割そのものが問題になる恐れもあります。
判断能力が不十分な場合は、成年後見制度など適切な方法を利用して相続手続きを進めます。

判断能力が不十分な場合は成年後見制度を利用する

成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分な人を法律的に保護・支援する制度です。
本人だけで預貯金の管理や契約、不動産の売買、遺産分割協議などを行うことが難しい場合に利用できます。家庭裁判所が本人の判断能力や状況に応じて援助者を選任します。

成年後見制度とは

法定後見制度には、本人の判断能力に応じて「後見」「保佐」「補助」の3種類があります。
判断能力を欠くのが通常の状態である場合は成年後見人、判断能力が著しく不十分な場合は保佐人、判断能力が不十分な場合は補助人による支援を受ける仕組みです。
精神疾患があるからといって必ず利用する制度ではなく、本人の判断能力に応じて利用の必要性を検討します。

家庭裁判所へ成年後見人の選任を申し立てる

成年後見制度を利用する場合は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ後見開始などの審判を申し立てます。
申立てでは、申立書のほか、本人情報シートや医師の診断書など複数の書類を準備する必要があります。
家庭裁判所が本人の状態や事情を確認したうえで、適切な成年後見人等を選任が必要です。
手続きには一定の時間や費用も必要になるため、相続が発生した後は早めに準備を始めましょう。

成年後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加する

成年後見人には、本人の財産を管理し、本人に代わって法律行為を行う役割があります。
そのため、本人だけでは遺産分割協議を行えない場合には、成年後見人が本人を代理して協議に参加することが可能です。
ただし、成年後見人の役割は遺産分割が終われば終了するものではありません。
原則として、本人が判断能力を回復するか死亡するまで続きます。
制度の利用を検討するときは、相続手続きが終わった後の財産管理なども含めて考える必要があります。

成年後見人も相続人の場合は利益相反に注意する

成年後見人と本人が同じ被相続人の相続人になると、遺産を多く取得するほど一方の取り分が少なくなるため、利益相反が発生します。
例えば、母親が精神疾患のある子の成年後見人であり、その母親と子が共同相続人になるような場合です。
後見監督人が選任されていない場合などには、遺産分割のために特別代理人の選任が必要になることがあります。
具体的な対応については家庭裁判所や専門家へ確認しましょう。

精神疾患がある人が相続するときの注意点

精神疾患がある相続人がいる場合も、通常の相続と同じように期限が設定されている手続きがあります。
相続放棄や相続税の申告などが必要な場合は、期限を過ぎないよう早めに対応しましょう。

相続放棄をする場合は期限に注意する

被相続人に多額の借金がある場合などには、遺産を相続せず相続放棄をする方法があります。
相続放棄は、原則として自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所で手続きを行います。
なお、申立てによって熟慮期間を伸長することも可能です。
本人の判断能力が不十分な場合は手続きが複雑になることがあるため、弁護士などへ早めに相談しましょう。

不動産を相続した場合は登記手続きが必要になる

相続財産に土地や建物などの不動産が含まれている場合は、遺産分割などを行った後に相続登記が必要です。
精神疾患がある相続人が不動産を取得する場合も基本的な手続きは変わりません。登記に必要な書類の作成や申請について不明な点があれば、司法書士へ依頼する方法もあります。

相続税の障害者控除を利用できる場合がある

精神疾患がある相続人のうち、一定の要件を満たす人は相続税の障害者控除を利用できる場合があります。
相続税の障害者控除を受けられるのは、財産を取得した時点で障害者に該当する85歳未満の法定相続人などです。
一般障害者は満85歳になるまでの年数1年につき10万円、特別障害者は1年につき20万円を相続税額から控除できます。

精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人も障害等級などに応じて対象となります。
精神疾患がある人すべてに適用されるわけではないため、申告や控除額については税理士などへ確認しましょう。

精神疾患がある人の相続は専門家に相談できる

精神疾患がある人の相続では、本人の判断能力や遺産の内容によって必要な対応が異なります。
遺産分割で相続人同士に問題が発生している場合や成年後見制度について相談したい場合は、弁護士や司法書士などの専門家へ相談する方法があります。
無料相談を行っている法律事務所や司法書士事務所もあるため、利用を検討してもよいでしょう。

また、相続税の申告や障害者控除など税金に関する相談は、税理士が専門です。
それぞれの専門家が対応できる業務を確認し、抱えている問題に適した相談先を選びましょう。

精神疾患があっても本人の状態に応じた方法で相続できる

精神疾患があっても、それだけで相続人としての権利を失うことはありません。本人に十分な判断能力があれば、自ら遺産分割協議に参加して財産を相続できます。
一方、精神障害などによって判断能力が不十分な状態では、成年後見制度の利用が必要になるケースもあります。
本人を除外して家族だけで遺産分割を進めるのではなく、本人の権利や利益を守れる方法を選ぶことが大切です。

成年後見人の選任や相続放棄、不動産の登記、相続税など、相続ではさまざまな手続きが発生します。
対応に迷った場合は弁護士・司法書士・税理士などの専門家へ相談し、本人の状態や相続内容に応じて手続きを進めましょう。

▲
Tweets by tokyo_souzoku