相続・贈与マガジン2019年8月号

数字で見る相続

93.7%

 2017年に法務省が調査した『我が国における自筆証書による遺言に係る遺言書の作成・保管等に関するニーズ調査・分析業務』によれば、これまでに自筆証書や公正証書による遺言書を作成した経験が『ない』と回答した65歳から69歳の割合は93.7%でした。同様の回答は70歳から74歳で92.5%、75歳以上でも88.6%と、ほとんどの高齢者が遺言書をつくっていないことがわかります。一方、遺言書を作成したいと思うかという質問に『作成する気はない』と答えた人は65歳から69歳では65.1%に留まっており、30%以上の人が将来的には遺言書を作成しようと考えていることがわかりました。
 遺言書の作成は「まだ元気だから」「家族と話してから」など、いろいろな理由をつけて先延ばしにしがちなものですが、残さずに亡くなり、相続が“争族”となることのないよう、早めの準備が肝心です。

◇資産安心コラム◇

未成年者や障害者が遺産を相続する場合は控除が受けられる?

相続人が未成年者や障害者である場合には、各人の相続税額を算定した後に、未成年者控除額、障害者控除額として相続税の額から一定額が差し引かれます。おおよそいくらくらいが引かれることになるのでしょうか? また、手続きなどはどう進めるべきなのでしょうか?今回は、未成年者や障害者が相続するときの控除額と注意点をご紹介します。

未成年者の相続税控除額は?

 未成年者が財産上の法律行為を行う際は、親権者などが法定代理人になる必要があります。相続に関しても遺産分割協議などは原則として法定代理人が必要になってきます。
 しかし、未成年者の親権者も相続人の場合は、遺産分配における利益が対立する関係になっているため、親権者が法定代理人になることはできず、家庭裁判所に申し立てて、『特別代理人』を選任する必要があります。 
 相続人に未成年者がいる場合、その人が20歳に達するまでの年数につき10万円がその未成年者の相続税から控除されます。
 相続人の年齢が15歳3カ月の場合、20歳までは4年9カ月あります。端数は切り上げとなるので、5年×10万円=50万円の税額控除となります。

障害者の相続税控除額は?

 障害者の場合は、意思能力に問題ないと判断されれば、特別な手続きは必要ありません。しかし、意思能力に問題がある場合は、家庭裁判所に申し立てをして、後見人を選任しなければいけません。
 後見人がいないと、遺産分割協議を行ってもその協議が無効になってしまったり、後々大きな問題に発展したりする可能性もあります。
 後見人は、親族関係図、親族の同意書、目録、申立書などを家庭裁判所に提出し、後見人の承認をしてもらいます。
 また、障害者においては、その人が85歳になるまでの年数につき10万円が相続税額から控除されます。特別障害者の場合は20万円となります。
 障害者控除は控除額が本人の相続税額よりも大きくなるため全額が差し引きしきれないこともあります。その場合は、扶養義務者の相続税額から差し引かれます(未成年者控除も同様に、本人の相続税よりも控除できる金額が大きい場合は、扶養義務者からも控除できます)。その障害者が今回の相続以前の相続でも障害者控除を受けていた場合には、控除額が制限されること
があります。
 国税庁のホームページでは、相続税の項目で、障害者の税額控除について詳しく解説されています。控除が適用されるケースなのかどうか、一度調べてみてはいかがでしょうか。

参照URL:
国税庁『相続税の計算と税額控除 No.4167 障害者の税額控除』
https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/4167.htm

◇今からできる相続対策◇

遺産分割や納税の対策にも効果的!
生命保険を活用した節税方法

万が一の事態に備え、生命保険に加入している方や加入を検討している方がいると思います。生命保険の死亡保険金は相続税の対象になっていますが、遺族の生活を守るためという観点などから、一定の非課税枠が認められています。この非課税枠が認められるのは、どのような場合なのか確認してみましょう。

死亡保険金を相続人が受け取る場合一部非課税の対象に

 被相続人が亡くなったことで取得する死亡保険金や損害保険金で、その保険料の全部または一部を被相続人が負担していたものは、相続税の課税対象になります。
 この死亡保険金の受取人が相続人の場合、すべての相続人が受け取った保険金の合計額が非課税限度額を超えると、その部分にのみ相続税が課税されます。
 死亡保険金は、残された家族の生活を守る観点から、相続人が保険金を受け取る場合に限り500万円×法定相続人の数が非課税金額になります。この法定相続人には、実際に生命保険金を受け取っていない人も含みます。
 法定相続人が妻と子ども2人で、死亡保険金を受け取ったのが妻のみだったとしても、500万円×3人=1,500万円が非課税となり、1,500万円を超えた分のみが課税対象となります。
 たとえば死亡保険金の4,000万円を妻が受け取ったとして、そこから相続税を課税されるのは、1,500万円分を差し引いた2,500万円の部分になるわけです。相続人でない人が保険金を受け取る場合には、この規定が適用されません。
 死亡保険金については、相続人が受け取れるように調整しておくとよいでしょう。

基礎控除や債務控除を使って相続税を節税しよう

 非課税枠を超えた分についても、まだ控除できる場合があります。相続税には基礎控除や債務控除などがあり、保険の非課税金額や債務控除額などを差し引いた相続財産の全額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の範囲内であれば相続税はかかりません。
 また、相続財産が不動産の場合は、複数の相続人で分割しにくく、トラブルの原因にもなりかねません。分割が公平にならない場合にも、死亡保険金の受け取り額でバランスが取れるという面からも、非常に有効な手段といえます。
 トラブルを回避しながら、相続税の計算の基準となる財産の評価額を下げることが可能な生命保険の活用について、ぜひご検討ください。

◇相続の基本講座◇

エンディングノートの活用(2)

~これからの人生を有意義に~

遺言書を公正証書で作成する予定です。家族に残すものはこれで十分で、最近よく目にするエンディングノートなど不要に思えますが、いかがでしょうか。

エンディングノートは、『遺言書に書くほどではないけれど、伝えたいこと』などについて細かく記しておくのに便利です。一つひとつ書き留めることで、身辺を整理でき、今後の人生をより有意義に過ごすためのヒントになります。

 エンディングノートに書いておくと役立つことには、たとえば、以下のような項目があげられます。
●自身の基本的な情報
●家族や親族の一覧表、重要な連絡先
●相続に関すること
●資産について
●電子財産について
●持病やかかりつけの病院について
●自身の葬儀について
 このほかにも、たとえばペットがいる場合などは、世話の方法やかかりつけの病院など、自分がいなくなった後も幸せに暮らせるよう、できる限りの情報を残しておけます。
 また、価値の高い財産は遺言書に記す必要がありますが、『趣味で描いていた絵』『思い出のアルバム』などについても、エンディングノートで譲渡先を指定しておけば、遺された人も困らずにすみます。

 さらに、自分の訃報を知らせて欲しい人や、お世話になった人のリストなどもつくっておくと安心です。
 こういったことを一つひとつ書いていくことで、自分の人生と向き合い、今の自分の状況を整理することができます。
 “これからの人生のため”という前向きな意味で、エンディングノートを活用してみてはいかがでしょうか。

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