相続・贈与マガジン2020年1月号

40年ぶりに民法が大改正されました。2020年第1弾の「相続・贈与マガジン」では、自筆証書遺言の扱いや預貯金の払い戻しなど、相続法の主な改正点を解説しています。海外資産に日本の相続税がかからない要件についても必読です。

2020年1月号目次

70億円とは?数字で見る相続

国税庁が発表した「平成29事務年度における相続税の調査の状況について」によると、海外資産に係る申告漏れ等の非違件数は134件でした。

海外資産に係る申告漏れの課税価格は平成28事務年度の52億円から70億円へと大きく増加しており、こうした増加の流れは3年ほど続いています。

過去には富裕層を中心に相続税対策として海外移住や資産を海外で保有することなどが行われてきましたが、国税庁では海外資産の調査や事案の把握を強化していることが伺えます。財産のうち、非違件数が多いものが現金・預貯金等でした。海外の銀行に預金を保有している場合、相続対象となる資産について改めて確認しておきたいところです。

2020年1月号の「相続・贈与マガジン」では「海外資産と相続税」について取り上げています。ぜひご一読ください。

海外資産でも日本の相続税がかからない要件とは?

多額の資産を持つ富裕層が税金対策として海外に移住するケースがあります。

しかし、国内の資産が海外に流出すれば、日本としては相続税の課税ができなくなり財政にも影響が出てきます。

そのため、近年では海外資産に対する縛りが厳しくなっています。海外資産に相続税がかからない要件を改めて押さえておき、注意するようにしましょう。

日本に住んでいる場合は相続税の課税対象に

大原則として、日本国内にある資産はすべて課税の対象となります。日本人が有する資産だけでなく、外国籍の人が有する資産であっても同じです。

では、日本ではなく海外にある資産についてはどうでしょうか。海外にある資産でも、所有している被相続人または相続人が日本に住んでいる場合は、すべての資産に相続税が課税されます。

たとえば、日本に住んでいるAさんが日本に不動産を持ち、海外の銀行に外貨預金を持っているとします。この場合、不動産にも外貨預金にも日本の相続税が課税されるのです。

また、海外に移住していた父親が亡くなり、日本に住んでいる子どもが「父親が住んでいた海外の不動産」を相続するとします。この場合、父親(被相続人)は海外に移住していても、子ども(相続人)が日本に住んでいるため、海外の不動産には日本の相続税がかかることになります。

海外移住10年以上で日本の相続税の対象外に

被相続人も相続人も海外に移住している場合、10年超経っているかどうかがポイントになります。被相続人も相続人も海外に移住して10年超経っている場合、海外にある資産には日本の相続税は課税されずに現地の税法に従うことになります。一方、移住して10年以内の段階で相続が起こった場合には日本の相続税が課税されます。

ちなみに、10年超海外に住んでいる場合でも、日本にある資産については、原則通り日本の相続税が課税されます。

国税庁は経済協力開発機構(OECD)が策定した共通報告基準(CRS)を導入して、参加国同士で海外に住む自国民の銀行口座情報の交換を行うなど、相続資産を把握するネットワークを強化しています。今後ますます海外資産への調査の手が厳しくなることが予想されますので、注意が必要です。

40年ぶりの相続法大改正で押さえておきたいポイントとは?

約40年ぶりに民法が大改正され、相続法に関する部分が大きく変わりました。今回の改正では、自筆証書遺言や預貯金の払い戻しなど、相続に影響する部分の改正が特徴となっており、すでに2019年に施行されたものもあれば2020年4月に施行されるものもあります。

そこで、今回は相続法改正の主な変更点をご紹介します。

相続に影響する主な5つの変更点

(1)自筆証書遺言が法務局で保管できるようになる(2020年7月10日施行)

公証役場で保管してくれる公正証書遺言と違って、自筆証書遺言は改ざんされたり隠されたりする恐れがありました。

今回の改正により、自筆証書遺言を法務局で保管してくれるサービスが始まります。ただし、法務局には被相続人本人が出向かなければならないため、状況によっては利用が難しいケースも出てくる可能性があります。

(2)配偶者居住権の新設(2020年4月1日施行)

配偶者が自宅に住み続けられる権利を守るため、自宅は「配偶者居住権」と「負担付き所有権」の 2つの権利に分割されることになりました。

そのため、配偶者は自宅を相続しながら、そのほかの預貯金などの財産も相続できる可能性が高まります。

(3)自筆証書遺言の財産目録がパソコンで作成可能に(2019年1月13日施行)

資産を多く保有している場合、遺言書に添付する財産目録が何枚にも渡ることがあります。これを手書きする負担を軽くするために、自筆証書遺言のうち財産目録は手書きではなく、パソコンで作成したものや預金通帳のコピーなどでもよいことになりました。

ただし、すべてのページに署名押印が必要であるため、気をつけましょう。

(4)預貯金の払戻し制度が創設(2019年7月1日施行)

これまでは、亡くなった人の預貯金口座は死亡とともに凍結され、家族や相続人などが預金を下ろすことができませんでした。そのため、葬儀費用などの支払いで困るケースも。

そこで、一定金額までは払い戻しが受けられるようになりました。

(5)遺留分減殺請求権で金銭を請求できる(2019年7月1日施行)

従来の民法では、遺留分減殺請求を行うと、不動産がほかの相続人との共有になるなど、実際の権利関係上で不都合が生じていました。

そこで、遺留分減殺請求権を「遺留分侵害額請求権」と改めることで金銭債権が発生するようになったため、共有状態などを金銭により回避できるようになりました。

民法改正により、従来の手続きに変化が生じています。改めて確認しておきましょう。

配偶者も両親も子どももいない…この場合、相続人は誰になる?

高齢の叔父が亡くなりました。妻である叔母も両親もすでに亡くなっており、夫婦には子どももいません。この場合、叔父の財産の相続人は誰になりますか?
叔父(被相続人)の配偶者・子ども・両親のいずれもが亡くなっている場合は、叔父の兄弟姉妹が相続人となります。もし兄弟姉妹も亡くなっている場合は、その子どもが「代襲相続」で相続人となります。

相続人が誰になるかは、民法によって以下のように決まっています。

  • 配偶者
  • 第一順位:子
  • 第二順位:父母
  • 第三順位:兄弟姉妹

配偶者と子がいる場合は配偶者と子が相続人となりますが、子がいない場合は、配偶者と第二順位の父母が相続人となります。今回のケースでは妻も子も両親もいないため、第三順位の兄弟姉妹が相続人となります。

このとき注意したいのが「代襲相続」という制度です。「代襲相続」とは、本来相続人となるべき人が先に亡くなっている場合に、その人を飛び越えて下の世代が相続人となることをいいます。

第二順位の場合は、両親がいないときは祖父母と、今度は上に代襲相続されます。今回のケースのように兄弟姉妹が相続人になる場合は、その下の世代(被相続人の甥や姪)も代襲相続人になる可能性があるわけです。

ただし、第三順位の代襲相続は、第一順位と第二順位の代襲相続とは大きな違いがあります。第一順位と第三順位を比較した場合、被相続人A、Aの子B、孫C、ひ孫Dがいるとします。子Bが早くに他界し、その後Aが死亡した場合は、孫であるCがAの財産を相続します。もし子Bも孫CもAより先に亡くなっている場合、ひ孫であるDがAの財産を代襲相続することになります。

このように第一順位の子の場合は、代襲相続が下の世代にどこまでも続きますが、第三順位の兄弟姉妹については、甥や姪までしか下の世代に代襲相続することはできません。この点が、第一・第二順位 と第三順位の代襲相続の大きく違うところです。代襲相続が起きると遺産分割協議が複雑化する恐れがあります。相続人となるのは誰なのか、事前に把握しておくことが大切です。

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