最終更新日:2026年2月10日

相続した不動産を売却しようとしたら、見たことも聞いたこともない抵当権がついていた―そんなご相談は実は珍しくありません。
「父の名義で抵当権がついているけれど、借金の話なんて聞いたことがない」「書類も何も残っていない。これって一生売れないの?」と不安になるお気持ちはよくわかります。
結論から言うと、慌てなくても大丈夫です。
不動産を売却するには、原則抵当権の抹消登記が必要です。
「抵当権は万が一お金を返せないときは、この不動産を頂きます」というお約束なので、そんなリスクのついた不動産は買いたくないですよね。
ですが、なぞの古い抵当権であっても、抹消の方法はいくつか用意されています。
弁済証書や供託など専門用語が出てきて驚くかもしれませんが、その方法もわかりやすくご案内いたします。
目次
そもそも抵当権とは?
抵当権とは、不動産にくっつく「借金のしるし」のようなものです。
「お金を返せなくなったら、この不動産を担保にします」という約束のため、買主からするとリスクがあり、抵当権が残ったままでは売却できません。
通常は、借金を完済すると金融機関から「抵当権を外しますよ」という書類が届き、それを使って法務局で抹消登記をします。
しかし相続の場合、そもそも完済したのかどうかもわからず、書類も残っていないケースが多くあります。
古い抵当権(休眠担保)はどう扱う?
明治・大正・昭和初期に設定された抵当権がそのまま残っていることがあります。
抵当権者はすでに亡くなっており、相続人も不明。住所もわからない。書類もない。
こうなると「もう無理では…?」と思われがちですが、実はきちんと手続きの道が用意されています。
抵当権を抹消するための主な方法
まずは代表的な抹消方法を整理してみます。
通常の抹消
通常は、不動産の所有者と抵当権者が一緒に申請します。
しかし、抵当権者が行方不明だったり、すでに亡くなって相続人も不明だったりすると、この方法は使えません。
そこで登場するのが次に紹介する「単独申請」です。
抵当権者が行方不明のときの単独申請による抹消
抵当権者の所在がわからないため共同申請ができない場合、不動産の所有者が単独でできる抹消方法です。
(1)弁済証書による抹消方法
完済した証拠書類(債権証書、契約書、領収書など)が残っていれば、法務局に提出して抹消する方法です。
ただし、相続の現場では書類が残っていることはほとんどなく、実務ではあまり使われません。
(2)供託による抹消方法
債権額・利息・損害金の全額を供託する方法です。
借金の元金・利息・損害金をまとめて供託し、「いつでも取りに来てください」という状態を作る方法です。
明治時代の抵当権なら金額が小さいこともありますが、昭和の抵当権だと数十万円になることもあり、負担が大きくなる場合があります。
また、抵当権者が本当に行方不明であることを証明する必要があり、個人なら郵便の不到達、法人なら登記記録の不存在など、細かな調査が必要です。
【条件】
・担保権者の所在が知れないこと
・被担保債権の弁済期から20年を経過していること
・被担保債権、その利息及び債務不履行により損害の全額に相当する金銭を供託できること
「担保権者の所在が知れないこと」はどう証明するのか
- 個人の場合
個人の場合は、配達証明付郵便を送付して「不到達」であれば「行方不明」を証明することができます。配達証明付郵便を送付するため、登記記録上の住所から戸籍謄本や住民票の写しを調査し、その住所地へ郵便を送付します。 - 法人の場合
法人の場合には、まず法務局で法人の登記事項証明書を調査します。会社の登記簿謄本や閉鎖謄本が取得できると「行方不明」には該当せず、登記事項証明書や閉鎖事項証明書などの登記記録が見当たらない場合に「行方不明」として認められます。つまり、何年も前に閉鎖されている会社でも閉鎖謄本が残っていると「行方不明」とはならないため、「行方不明」が条件となっている抹消方法は利用することができません。
(3)除権決定による抹消方法
裁判所に公示催告の申立を行い、除権決定を得る方法です。
裁判所に「この抵当権、もう権利がないはずなので名乗り出る人がいなければ消してください」と申し立てる方法です。
ただし、完済を示す資料が必要だったり、消滅時効の手続きが必要だったりと、条件が厳しく、実務ではあまり使われません。
また、被担保債権(担保の元となる債権)が消滅時効にかかっている場合は、前提として消滅時効の援用をする必要があります。消滅時効の援用をするためには相手に通知が届かないといけないため、消滅時効援用の意思表示の公示催告を申立て、そのあと除権決定の公示催告を申立てるという事になります。こうなると手間も時間もかなり要するので、抵当権抹消訴訟を提起した方が良いかもしれません。
【条件】
・担保権者の所在が知れないこと
・疎明する資料があること
・実体法上、権利が消滅していること
「疎明する資料があること」とは?
除権決定を得るためには、公示催告を申立てますが、そのために「権利が消滅していることを疎明するための資料」が必要となります。たとえば、完済証明書、契約書、領収書などです。
「実体法上、権利が消滅していること」とは?
除権決定を得て休眠担保権を抹消する場合、被担保債権又は担保権が、実体法上、消滅してることが必要です。
(4)判決による抹消方法
資料も何も残されていない場合の最終手段です。裁判所に訴訟を起こし、判決を得て抹消登記をします。裁判に数カ月の期間を要します。
(1)~(3)の手続きに比べて時間はかかりますが、一方で資料が揃っていなくても進められるため、実務ではこの方法が選ばれることが多くあります。
【条件】
実体法上、被担保債権又は抵当権が消滅していること
それ以外は特に条件はなく、抵当権者が行方不明であっても、資料がなくても基本的には問題なく進めることができます。
抵当権者は行方不明でなくても良い?
(1)~(3)の方法で単独申請をするには、抵当権者の行方不明が条件であるため戸籍謄本、住民票の写し、会社登記簿謄本等を調査する必要がありましたが、訴訟を提起する場合は、行方不明でなくても構いません。
実体法上、被担保債権又は抵当権が消滅していること
訴訟を提起して抵当権を抹消する場合にも、実体法として、抵当権が消滅している必要があります。抵当権が消滅していないのに訴訟をしても、相手方から反論をもらって終わるだけです。
なお、被担保債権を10年以上放置してしまった場合には消滅時効にかかっている可能性があります。その場合、抵当権が消滅していることにはなりませんが、訴訟の手続き上で、消滅時効を主張することで、抵当権を抹消することができます。
どの方法がベストなのか?
抵当権の年代、金額、資料の有無、抵当権者の状況などによって最適な方法は変わります。「とりあえずこれをやればいい」という万能の方法はなく、ケースごとに判断が必要です。
相続した不動産の売却は、ただでさえ気を遣う場面が多いものです。そこに古い抵当権が絡むと、一般の不動産会社では対応できず、結局司法書士に依頼することになります。
まとめ:古い抵当権があっても売却はできます。まずは専門家に相談を
見知らぬ抵当権がついていると、不安で手が止まってしまう方が多いですが、どんなに古い抵当権でも、適切な手続きを踏めば抹消できます。
そして、どの方法が最も早く・確実で・費用を抑えられるかは、専門家が状況を見れば判断できます。
清澤司法書士事務所は、司法書士が運営する不動産会社として、法律と不動産の両面から問題を整理し、最短ルートで売却できる体制を整えています。
相続不動産の売却や古い抵当権でお困りの方は、どうぞお気軽に無料相談をご利用ください。
この記事の執筆・監修
清澤 晃(司法書士・宅地建物取引士)
清澤司法書士事務所の代表。
「相続」業務を得意とし、司法書士には珍しく相続不動産の売却まで手がけている。
また、精通した専門家の少ない家族信託についても相談・解決実績多数あり。
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