最終編集日2026年1月5日
相続が発生すると、すべての財産を民法で定められた法定相続人で分ける必要があります。このとき、遺産分割協議という話し合いを行って、誰が何を相続するかを決めていきます。
特に自宅の価値が大きい場合、配偶者がその家を相続すると他の相続人に分ける財産が足りなくなり、話し合いが難航することがあります。
そこで2020年の法律の改正により新設された制度が「配偶者居住権」です。配偶者居住権が新設されたことで子どもなど別の相続人が取得しつつ、配偶者はその家に住み続ける権利を有することができるようになりました。
当記事では配偶者居住権の概要や登記についてわかりやすく解説します。
目次
- 配偶者居住権とは
- 配偶者居住権の登記は必要?
- 配偶者居住権の注意点
- 売却ができない
- リフォーム・改築は所有者の許可が必要
- 登記の費用がかかる
- 内縁の関係では設定できない
- 配偶者居住権を設定する場合は専門家に相談を
配偶者居住権とは
配偶者居住権とは、自宅の所有権を子どもなど別の相続人に相続させ、配偶者は「その家に住み続ける権利」である居住権のみを相続する遺産分割の方法です。配偶者は建物の所有者にはなりませんが、無償で住み続けることができます。
配偶者居住権が新たに施行される前は、自宅に配偶者が住み続けるために家族が相続放棄を行う事例や、放棄をせずとも遺留分を侵害せざるを得ないケースもありました。特にアクセスがよく土地・建物の価値が大きく、遺産の大部分を占めてしまうような都市部では、自宅の土地建物を配偶者が取得して所有してしまうと、他の相続人に分ける財産が足りず、トラブルになりやすかったのです。
配偶者居住権を利用することで、配偶者は住み慣れた家に住み続けられる一方、子どもは所有権を取得でき、さらに配偶者も現金などの生活資金を確保しやすくなるというメリットがあります。こうした柔軟な遺産分割が可能になることで、遺産分割協議がスムーズにまとまる可能性が高まります。
配偶者居住権は基本的に配偶者が亡くなるまで住み続けることができる権利として存続するように設定しますが、期間を短く定めることも可能です。また、賃料は基本的になく無償で住むことができます。配偶者が亡くなると自動的に配偶者居住権は消滅し、所有権を持つ子どもなどが自由に使えるようになります。
配偶者居住権は遺言に記載し、設定することができますので、自宅不動産が相続財産の大部分を占めている場合は遺言を作成し、配偶者居住権を設定することを選択肢として検討してみてもよいでしょう。
遺言書に記載する場合は自宅で保管する自筆証書遺言よりも公正証書遺言の方が確実です。公正証書遺言であれば、紛失や改ざんの心配がなく、家庭裁判所での検認手続きも不要です。また、遺言書には手続きを行う執行者を決めておくことで、相続開始後にスムーズに相続手続きを開始することができます。執行者は税理士や司法書士などに費用を払って依頼することもできますし、相続人のうち1人を指定することも可能です。
配偶者居住権の登記は必要?
配偶者居住権は住み続ける権利として建物に登記することが可能です。登記の手続きは義務ではなく、必ず行わないといけないわけではありませんが、登記は非常に重要です。
たとえば、所有権を持つ子どもが事情により家を売却した場合、登記がなければ新しい所有者から「退去してください」と言われても対抗できず、住み続けることができなくなります。親子間で不仲である場合を除き売却されるケースは多くはないと思いますが、トラブルを避け、安心して生活を維持するためにも念のため登記はしておいた方がよいでしょう。
配偶者居住権を登記をする場合は原則として
- 配偶者(居住権者)
- 所有者(子どもなど)
の共同申請が必要です。
もし所有者が協力しない場合でも、家庭裁判所の審判や調停で配偶者居住権の取得が認められた場合には、配偶者が単独で申請できるケースもあります。
配偶者居住権の注意点
配偶者居住権を設定することで上記に解説したようなメリットもありますが、デメリットもあります。配偶者居住権の注意点についても理解しておきましょう。
売却ができない
配偶者居住権は所有権ではありませんので、配偶者の判断で売却することはできません。また、売却をしたとしても建物や敷地として利用している土地の売却代金を得るのは所有者です。
パートナーの死後に介護が必要となり、有料老人ホーム等の施設に入居して生活したいと考えた場合でも、居住権を相続した配偶者は自宅を売却し、入居費用に充てることはできません。また、自宅を賃貸に出して賃料を得ることもできませんので、残された金銭が少ない場合には注意が必要です。
リフォーム・改築は所有者の許可が必要
配偶者居住権を設定している場合、相続した後に自分で家をリフォームする場合でも所有者の許可が必要です。配偶者は高齢のケースが多いので、実際に住んでいると手すりをつけるなどのリフォームが必要となる場合もあるでしょう。
親子間の関係が良好で問題なく認められるのであれば、許可を得たうえでリフォームを行うことが可能です。
登記の費用がかかる
配偶者居住権を設定し、法務局で登記をする場合は登録免許税がかかります。登録免許税は不動産の価格の1,000分の2ですので、1,000万円の場合は2万円となります。そこまで高額ではありませんが、費用がかかるということは認識しておきましょう。
内縁の関係では設定できない
配偶者居住権の制度を利用するために、戸籍上の夫婦であることが要件となっています。
そのため、戸籍上の夫婦ではない、いわゆる内縁関係である場合には配偶者居住権を設定することはできません。内縁関係の夫や妻に自宅建物に居住させる場合には生前贈与を行うか、遺言書を作成し、自宅不動産を遺贈できるようにするなど財産の配分を定めておく必要があります。
配偶者居住権を設定する場合は専門家に相談を
配偶者居住権を設定する際に、どの専門家へ相談すべきかはとても重要なポイントです。
配偶者居住権は、遺産分割・登記・相続手続きが密接に関わる制度であり、特に登記を行わなければ権利を第三者に対抗できないため、まずは登記の専門家である司法書士に相談するのが最も適切です。司法書士は、必要書類の案内や遺産分割協議書の確認、登記申請の手続き、相続全体の流れの整理など、実務の中心となる部分を一貫してサポートすることができます。
一方で、相続人同士の争いがある場合や、配偶者居住権の設定に反対されている場合、または調停・審判・訴訟が必要になる可能性がある場合には、弁護士への相談が必要になります。司法書士は争いの代理を行うことができないため、トラブルが予想されるケースでは弁護士と連携して進めることになります。
また、主に相続税の申告が必要なケースでは税理士の力が必要です。配偶者居住権は相続税評価にも影響するため、相続税の計算や財産評価、申告書の作成といった税務分野は税理士の専門領域となります。ただし、制度の利用や登記に関する相談は司法書士が入口として最適といえるでしょう。
配偶者居住権は、配偶者の生活を守りながら相続全体のバランスを取るための重要な制度ですが、登記や評価、遺産分割との関係など、専門的な判断が必要な場面も多くあります。まずは司法書士に相談し、必要に応じて弁護士や税理士と連携することで、安心して手続きを進めることができます。















